2020年夏CCS特集:シュレーディンガー

IPOで2億ドル超の利益、ソフトウエアに新技術導入

 2020.07.15−シュレーディンガーは今年2月、新規公開株(IPO)の公募を実施し、米NASDAQに上場(ティッカーシンボルはSDGR)した。これにより、2億ドル以上の利益を得たとしており、同社では新しいサイエンスを採用したソフトウエア開発、ならびに自社による創薬プログラムの推進をさらに加速させていく。

 同社は、生命科学と材料科学の両分野で先端モデリング&シミュレーション技術を提供しており、ビジネスはソフトウエア事業と創薬事業に大きく分かれている。売上比率は大まかに9対1となっている。創薬は、顧客との共同開発あるいは受託研究のかたちですでに多くの実績があり、臨床試験中のものや承認済みの新薬がいくつもある。また、同社独自で抗ガン剤領域を中心に5つの創薬パイプラインを走らせており、今回の株式上場もそうした費用をまかなう目的が大きかったという。いずれにしても同社のソフトウエア技術を実証する場となっており、これからの成果が期待される。

 一方、ソフトウエア事業は、低分子創薬、バイオロジクス、材料科学、データマイニングなどの分野で60本近いパッケージを提供。とくに、日本市場で大きく成長しているのが、タンパク質・リガンド間の結合自由エネルギーを高精度に予測する「FEP+」。GPU(グラフィックプロセッサー)を利用する超高速分子動力学エンジン「Desmond」によって現実的な速さで実験と同等精度の計算結果を示すことができる。実験の時間と費用を大幅に削減できることで、顧客からも高い評価を得ている。

 また、ウェブでの研究コラボレーション環境を提供する「Live Design」も注目度が高く、引き合いが急増している。とくに、新型コロナ感染拡大の影響で研究業務にもテレワークが求められたことで、目標を明確化して有償で評価するケースが増えている。ソリューションアーキテクトが顧客ニーズに合わせた開発や実装を行って最適な環境をつくり上げる。さらに、材料系パッケージは、シミュレーションとマテリアルズ・インフォマティクス(MI)を統合したいというユーザーニーズに基づき、昨年は2倍近い伸びとなった。

 今年はこれらの製品群を引き続き成長させるとともに、新しいサイエンスの提案にも力を入れる考え。例えば、AL-Glideで、ドッキングシミュレーションと機械学習(アクティブラーニング)を組み合わせたもの。数十億単位の仮想ライブラリーをスクリーニングすることが目的で、正攻法では処理できないスケールだが、機械学習によって飛躍的な高速化を達成する。

 また、IFD-MDは、ファーマコフォアと誘導適合ドッキング(IFD)、分子動力学(メタダイナミクスやWaterMapを含む)を統合的に駆使することにより、高精度なリガンド結合ポーズの予測を可能にする。シミュレーションは初期構造の正しさで精度が変わってしまうため、より精密な解析を行うためには重要なソリューションになりそう。


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