HPCシステムズとQunaSysが量子化学計算技術で提携

量子コンピューター実用化に焦点、アルゴリズム開発を推進

 2020.07.22−HPCシステムズ(本社・東京都港区、小野鉄平代表取締役)とQunaSys(本社・東京都文京区、楊天任代表取締役)は20日、量子コンピューターを利用した量子化学計算領域の技術開発について業務提携契約を締結したと発表した。それぞれが保有する技術・産業知見および顧客基盤などを共有し、2022年ごろとみられているこの用途で実用的な量子コンピューターの登場に備える。また、豊田通商の協力のもとで、事業開発にも取り組んでいく。

 現在開発あるいは実用化されている量子コンピューターの方式は、量子ゲート型と量子アニーリング型に分かれるが、今回主に対象にしているのは汎用性を持つといわれる量子ゲート型のマシン。ただ、ハードウエアを開発するのではなく、ソフトウエア、とくに量子化学計算アプリケーションをターゲットとしている。

 量子ゲートマシンは、ノイズに弱く集積が難しいが、昨年10月にGoogle Sycamoreが“量子超越”(古典計算機で量子回路をシミュレーションできないこと)を達成したことで注目を浴び、NISQ(Noisy Intermidiate-Scale Quantum)と呼ばれるマシンの開発が盛んになっている。これは、誤り訂正機能がなく、量子ビット数も数百程度と限定的だが、この水準のマシンを活用して“量子加速”(実用的な問題で量子コンピューターの方が優位性を獲得すること)の実例を得ることが次なるマイルストーンだとされている。その用途として注目されているのが量子化学である。

 実際には、誤り訂正機能は必要で、この問題がクリアされるのは10〜15年後だとされているが、それまで待つのは遅いとして、多くの化学・材料企業が量子コンピューター上で動かすアルゴリズムなどについて先行研究を開始している。

 QunaSys(キュナシス)は、量子コンピューター向けのアルゴリズム・ソフトウエア開発を専門とする大阪大学発ベンチャーで、2018年2月の設立。これまで、量子化学では基本的な基底エネルギー計算に加え、より複雑な励起エネルギー計算(対象領域は有機EL、太陽電池)、エネルギー解析微分(同じく化学反応解析、薬物設計)、グリーン関数(同じく物性計算)、開放系(同じく熱電変換、電気抵抗)などをNISQマシン上で行うアルゴリズム開発を進めてきている。

 また、量子コンピューターの応用を図るコミュニティー活動として「QPARC」を運営しており、化学・材料メーカーを中心に38社が参加しているということだ。特定の顧客との共同研究でも、先端的なアルゴリズムの開発に取り組んでいる。そうした成果をまとめたライブラリーを「Qamuy」(カムイ)の名称でパッケージ化もしている。

 一方、HPCシステムズは、科学技術計算用高性能コンピューターとシミュレーションソフトの販売、科学技術計算や機械学習などの環境構築にともなうシステムインテグレーションのほか、計算化学にフォーカスしたソフト開発・販売、受託計算サービス、創薬研究や材料開発向けサイエンスクラウドサービスなどを提供している。材料科学研究の支援を重点事業領域と位置づけ、民間企業や大学との間で、量子化学計算をはじめとするシステム開発、先端アルゴリズム開発などを進めてきている。

 今回、両社が提携したことは、量子化学で実用的な性能を発揮するNISQマシンが登場した際に、速やかに応用展開が図れるように準備することが大きな目的になっているようだ。

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<関連リンク>:

HPCシステムズ(トップページ)
https://www.hpc.co.jp/

HPCシステムズ(テクニカルブログ、QPARCの活動に触れたレポート)
https://www.hpc.co.jp/tech-blog/2020/07/14/quantum-computer_report_1/?lang=ja

QunaSys(トップページ)
https://qunasys.com/


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