早大の研究グループが多彩な材料データを一括学習

40種類以上の物性と化合物・製造プロセスも、MI研究を推進

 2020.7.31−早稲田大学理工学術院の畠山歓講師および小柳津研一教授の研究グループは30日、多様な材料データや異なる物性値を単一の学習モデルに認識・学習させる手法を開発したと発表した。広範な知識を人工知能(AI)に与えることにより、人間のような柔軟な思考力、広い視野を持った判断、予測能力を備えたシステム実現への重要な一歩になるとしている。

 今回の研究は、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)を強化させる試み。例えば、化合物の融点と沸点の間には正の相関があることが広く知られており、人間であれば「高融点の化合物は沸点も高いはずだ」と予測するが、通常のAIは沸点または融点のデータを個別に学習しているため、総合的な判断を下すのは苦手だった。

 そこで、研究グループでは、頂点と辺によって情報間のつながりを表わすグラフ構造と呼ばれるフォーマットに注目、さまざまなデータをグラフ構造の共通書式に変換する手法を開発した。これにより、1つの学習モデルに対し、40種類以上の物性、数千以上の化合物、数百以上のプロセス情報を学習させ、総合的な予測ができるよう、材料科学に関する広範な知識をAIに付与することに成功した。

 検証として、透明ディスプレイなどへの応用が期待されるPEDOT-PSSと呼ばれる導電性ポリマーの物性予測を行った。ポリマーフィルムの製法の微妙な違いにより導電性が1万倍以上も変化してしまう材料だが、今回のAIはフィルムの製法(120度Cで10分加熱など)をもとに導電性を化学実験の熟練者並みの精度で予測できたという。

 今後は、多彩な背景知識を与えて“AIの経験と勘を磨く”という手法を推し進め、オープンアクセス論文や特許などの材料科学に関する膨大な公開データを自動収集し、学習させる取り組みを進める。MIで重要な“逆問題”を解くためのより洗練された方法論なども探っていくことにしている。

 なお、今回の論文は、「Communications Materials」誌オンライン版に、「Integrating multiple materials science projects in a single neural network」のタイトルで掲載された。

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<関連リンク>:

早稲田大学(小柳津研究室のホームページ)
https://oyaizu37a8.myportfolio.com/


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