米アスペンテックがAI応用の自己最適化プラント

自動的に学習・適応・自律、ハイブリッドモデリング実現

 2020.12.25−プロセス産業向け資産最適化ソフトウエアの大手、米アスペンテクノロジー(アスペンテック)は、生産現場に人工知能(AI)を組み込んで自己最適化プラントを実現する「aspenONE V12」を提供開始した。データを自動的に取り入れて自分で学習し、プラントの運転条件の変化に自動的に適応し、常に最善の目的を達成するための運転を自律的に行うことができる。未来型のオペレーショナルエクセレンスを具現化するソリューションとして、複数の大規模な生産設備を抱える石油・化学業界を中心に売り込んでいく。

 同社は数年前からAIベンチャーの一連の買収を展開し、もともとのプロセス産業に関する専門知識との融合を図ってきた。そのため、今回のV12はデータサイエンスの専門知識不要で重要プロセスへのAI適用を可能にし、プロセスの知識や経験の浅いユーザーに対してもAIによる的確なサポートができることが特徴となっている。

 外部環境や運転履歴データ、シミュレーションデータ、あるいはリアルタイムデータを活用してプロセスの予測精度を高め、予測範囲を広げるための自己学習を行うことが可能。運転条件が変化すると、それがプラントにどう影響するかを学習・予測し、生産目標を常に達成できるように適応する。また、AIを応用した予知保全によって、プラントの異常や故障の予兆を検知し、未然に適切な対策を講じることが可能。これらの機能は、マルチプラント/マルチサイトでの統合的な運用ができ、最終的に安全性や環境影響、信頼性、および収益性改善を全社レベルの高いバランスで達成することにつながるという。

 国内の石油・化学企業は、すでにデジタルトランスフォーメーション(DX)の関連でAI導入を進めている例が多いが、今回のV12により、AIの適用範囲を一気に広げ、全社展開を加速できるとしている。

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 以下に、今回の製品発表に当たってのアントニオ・ピエトリCEOのプレゼンテーションをインタビューに再構成する。

 − アスペンテックの唱える資産最適化とは。

 「最大限の財務利益をより安全に、より環境に優しく実現するための包括的アプローチだ。資産や設計の信頼性を調べ、その信頼性を考慮しながら資産の能力や冗長性を高めるための設備投資を最適化することができる。資産がどのように運転されているのかを調べ、その運転が資産の信頼性に与える影響を考慮することもできる。これを資産のライフサイクル全体にわたって適用し、資産ライフサイクルのあらゆる側面を考慮することで、より最適な設計の開発につながる」

 − 人工知能(AI)の活用がポイントになります。

 「AIだけではない。クラウド、ロボティクス、仮想現実(VR)、エッジコネクティビティなど、いわゆるインダストリー4.0を構成する技術は、ビジネスの成功要因にも破壊要因にもなる。受け入れて採用すれば競争優位性の実現手段になるが、無視すれば最終的に破壊要因になってしまう。例えば、AIの早期導入企業は、それによって発生する累積フリーキャッシュフローの大部分を獲得し、出遅れた企業はフリーキャッシュフローの生成がさらに遅れる。アスペンテックにとっても、AIはその両方になり得るため、3〜4年前にAI技術を取り入れることを決めた。AIを利用してより多くのイノベーションを市場にもたらすため、2017年に一連の買収をスタート。現在、データサイエンスティストのグループが化学エンジニアと協力して、徐々にイノベーションを生み出している。過去3〜4年間で2億7,500万ドルを投資した」

 − 産業界にAIを導入する際の課題は。

 「AI研究の歴史は長く、研究の大半は大学で行われており、基礎技術の一部やGoogleのTensor Flowといった人気の技術のほとんどはインターネットからダウンロードできる。そのため、現在のAIの世界には参入障壁はなく、いまやだれでもAI企業になれる。しかし、実際に使用されるシステムにおいて、機械学習のためのプログラミングは、ソースコード全体の5%にすぎない。残りの95%は、データインジェクション、条件付け、構造化機能、アプリケーションの提供方法、クラウドかエッジか、経験、拡張性といったことが占める。具体的な産業アプリケーションでは、業界の専門知識が重要なので、機械学習に関わる部分だけでなく、第一原理(物理、化学、数学)、エネルギー収支、物質収支、装置の理解、運転制約の理解、プロセスオペレーションを理解することは、AIを産業プロセスに安全に実装するためのガードレールになる」

 − 今回のV12で機能強化されたハイブリッドモデリング機能について。

 「今回、HYSYSやAspen Plusには、予測能力とその予測精度を改善するために、第一原理的なプロセスシミュレーション機能にAIが組み込まれた。とくに、非線形プロセスは第一原理によるモデリングが非常に難しいことがよく知られているが、線形プロセスと非線形プロセスからのデータを使用して経験的モデルを構築し、第一原理モデルに機械学習オブジェクトとして組み込むことができる。逆も可能で、純粋な経験的モデルがあれば、そのモデルに第一原理オブジェクトを組み込むことも容易だ。顧客でのベータテストも良好であり、近年で最も成功したイノベーションの一つになると思う」

 「また、資産の設計の加速化、資産の設計に必要な時間の最適化を支援することも目指している。マルチケース機能の導入により、資産の構築に必要な設備投資の最適化に役立つ重要な働きが、デスクトップ上の追加コア、またはクラウド上でのHPC環境を利用して、数千種類のシナリオを短時間で実行して最適な設計を選び出すことが可能。さらに、今後の最適な設計点を決定するための機能として、可視化機能とAIによる分析機能を強化する予定だ。これも近く利用可能になる」

 − 高度制御でのAI活用についてはどうですか。

 「従来、多変数コントローラーの設計構成や実装は手作業主体のプロセスで、エンジニアの専門知識が頼りだった。機械学習やディープラーニング機能を利用してこれを自動化したい。プロセスエキスパートから得られる専門知識の多くを自動化することに取り組んでいる。多変数コントローラーの設計にディープラーニングによる専門知識を利用し、P&IDを調べて関係を把握することで、相関するプロセス変数、操作変数、制御変数を特定できるようにする。また、コントローラーの設定、履歴データまたはシミュレーションデータを利用した変数間の関係モデルの開発、機械学習を利用したそれらのモデルの導出、制御マトリックスへの非線形モデルの組み込みによる高度な非線形プロセスのモデリングを自動化し、最終的にDMC3にすでに搭載されている適応機能を使用してコントローラーを実装しようと考えている。ゆくゆくは、多変数コントローラーの導入障壁の低下、多くの知識の自動化、APCコントローラーの実装の大衆化につながる可能性がある」

 − スケジューリングにもAIが利用できそうです。

 「石油精製所やエチレンプラントのプランナーは、長年にわたって多数の計画を作成して実行しており、実行される計画は数百ないし数千にのぼる。そこで、過去の計画と得られた結果を取捨選択し、その計画を実行したときに行った判断から学習できるようにすることで、最終的にプランナー向けのコグニティブガイダンスシステムとなる学習システムを開発する。プランナーは特定のシナリオに基づいて計画を作成できるように取り組める。夏季または冬季運転モードを用意することも可能。プランナーが計画を作成する際に必要となる判断をテクノロジーがガイドしてくれる。その計画の作成時に行った判断が正しかったかどうかが確認できるため、より自動化されたプランニングプロセスを構築し、石油精製所や化学プラントの計画作成に必要な専門知識のハードルを下げることができる」

 「コグニティブ機能の一部として、エンジニアリング製品のインコンテキストガイダンスを開発中。過去のプロセスユニットや資産の設計時に行った判断から学習し、その知識を利用して自動化し、新しい設計を行うデザイナーやプロセスエンジニアに対し、学習に基づいて正しい判断をガイドすることができる。さらに、eラーニング機能も製品に搭載する予定。エンジニアは製品を使いながら学ぶことができるため、エンジニアの生産性向上につなげることができる」

 「また、エッジコンピューティング機能を利用して、オンプレミスまたはクラウド上のコンピューターを利用することが可能。この数年間の買収の成果を通じて、アスペンテックAIoTハブという新しいソリューションを開発した。接続性、クラウド機能、ハイブリッドアプリケーションを実現するためのインフラストラクチャーであり、さらには産業用AIインフラ上で稼働するアプリケーションによって生み出された洞察を共有できるようにするための可視化機能と協調ワークフローを提供するために必要なインフラとなっている」

 − こうした取り組みの先に“スマートエンタープライズ”という目標があるわけですね。

 「アスペンテックはスマートエンタープライズと自己最適化プラントの実現をビジョンとして掲げている。自己最適化プラントは、運転の安全性、持続可能性、信頼性、収益性が時間とともに向上するプラントであり、価値を最大化して維持するプラントだと定義している。自己学習し、自己適応し、自律するもので、先見的に将来の状態を予測し、取るべき措置を予測または自動化する一連のテクノロジーとプロセスでもある」

 − 自己最適化プラントを実現するための要素として、自己学習プラント、自己適応プラント、自律プラント−の3要素をあげています。

 「自己学習プラントは、環境やシステムからの履歴データ、シミュレーションデータ、あるいはリアルタイムデータを活用して、環境全体からのデータや情報を活用して予測精度を高め、予測範囲を拡大することで賢くなるプラントのことだ。運転条件が変化すると、機械学習やディープラーニング機能がそれらの変化によってプロセスがどうなるかを理解し、生産目標を推進するため、時間とともに賢くなる」

 「次に自己適応プラントだが、例えば雷雨があると気温が下がり、プラントの運転条件に影響することがわかっている。そうした変化がプラントの運転にとって何を意味するのかを学習し、それを反映して常に目標を達成できるようにする。テクノロジーに組み込まれたディープラーニング機能によって、生産目標を達成できるように適応するということだ」

 「自律プラントは、異常、差し迫った装置故障、プロセスパフォーマンスの低下を実際に発生する前に検出し、それをきっかけに寿命を延ばすための措置を実行したり、プラントの運転目標を変更して資産の寿命を延ばしたり、運転条件を変更してプロセスパフォーマンスの低下を防止したりするプラントだ。自律プラントは、稼働時間と信頼性を最大化することができる」

 − この3つが統合的に働くものが自己最適化プラントだということですね。

 「これは、エコシステムの一部であると同時に企業の一部でもある。自己最適化プラントは、複数のスマートプラント間で需給バランスを調整することで、成果を最大化し、複数のプラント間で最適化する。また、いま何が起こっているのか、次に何をすべきかという疑問に対する答えを常に探し続ける。自動的にノイズを除去して情報を取捨選択し、最も重要な事柄に対する透明性とガイダンスを提供することにより、オペレーションの改善につながる洞察を絶えず提供するソリューションだといえる。自律的に実行するか、必要に応じて人間の承認を求めるかを決めることができる。あるいはリスクレベルに基づいて人間の介入を推奨することも可能。また、高度な没入型ユーザーエクスペリエンスを備えていることも期待される。プラントが三次元で表現され、その中でオペレーターやエンジニアがプラント内のすべての最新運転パラメーター、運転限界、テクノロジーによって設定された目標、変更された目標、ユニットに対する制限の変更、装置故障またはプロセスパフォーマンス低下を知らせるアラート、さらには学習に基づくユニットのメンテ時期などを確認することができる」

 「したがって、通常はエンジニアリングサービスグループによって提供されるサービスの多くがオンライン化され自動化される。自律パフォーマンス設計コンポーネントがあり、プランニングから最適化と制御までの閉ループによる自律生産最適化プロセスがあり、資産の寿命を延ばすためにテクノロジーによって運転の変更を推奨する自律信頼性・保全プロセスが備わっている。サプライチェーンに関する情報に即して機能し、協調ワークフローと没入型ユーザーエクスペリエンスを持ち、アスペンAIoTハブによって実現されるソリューションだ」

 − 野心的かつ遠大なビジョンですね。

 「いわば、長い時間をかけて実現すべきジャーニーだが、この35〜40年にわたってアスペンテックが業界の変革をお手伝いしてきたように、プロセス産業に再び変革をもたらすものと確信している」

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<関連リンク>:

アスペンテクノロジー(トップページ)
https://www.aspentech.com/

アスペンテクノロジー(自己最適化プラント紹介ページ)
https://www.aspentech.com/en/insights/the-self-optimizing-plant


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