2021年夏CCS特集:ケンブリッジ・クオンタム

量子コンで計算化学実行、ハード・ソフトの評価が可能

 2021.06.29−ケンブリッジ・クオンタム(CQ)は、量子コンピューターのためのソフトウエアやアルゴリズムを開発する特殊なノウハウを持つ企業。量子機械学習、最適化問題、量子自然言語処理、サイバーセキュリティなど、具体的な応用問題に関する取り組みを進めているが、その中でも有望領域に位置づけているのが“量子化学”だ。現在の密度汎関数法(DFT)で十分な精度が出せない分子系に対して、電子相関の効果を取り入れることでより精密な計算が可能になると期待されている。

 CQは2014年に英国で創業した。拠点は米国と日本にもあり、年内にはドイツにも設ける予定。現在の社員数は150人近くで、そのうち100人は研究者である。量子コンピューターはIBMが超電導型の実機を商用化しているほか、昨年からハネウェルもイオントラップ型で市場参入した。この両社がCQに出資しているため、実機を使った研究や評価も行いやすい。実際にマシンタイムを提供して、ワンストップで量子コンピューティングの研究プロジェクトを実施できることが大きな強みとなっている。また、出資者には日本企業のJSRも名前を連ねており、化学アプリケーションへの応用の広がりが期待される。今月、CQとハネウェルの量子コンピューター事業部門が経営統合する計画が新たに発表となり、今後の展開がますます注目されるところだ。

 CQのビジネスモデルは顧客との共同研究が中心だが、その基盤として量子ソフトウエア開発キット「tket」(ティケット)を開発している。多数の量子デバイスやシミュレーター、開発フレームワークをサポートしており、迅速なプロトタイピングが可能。ノイズの影響を軽減する機能を盛り込んでおり、「tket」で開発すれば、特定のマシン専用ではなく移植性に優れたプログラムを作成できる。

 この「tket」をベースにした化学向けのアプリケーションが「EUMEN」。すでに多くのプロジェクトで使用されており、外部リリースに向けたベータテストも実施中。実用化が進むNISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum device)デバイスで扱いにくいとされる分子や、材料シミュレーションに対処できるようにすることがコンセプトで、基底状態エネルギー計算のための変分アルゴリズム“VQE”、基底状態と励起状態に対応した新しいNISQ変分アルゴリズム“ITE”、コンフォメーション・遷移状態・反応経路の分析を行う“QEGO”、QM/MM計算の埋め込みなど、最新の量子化学アルゴリズムを複数実装している。最近では、CQの研究グループがモンテカルロ計算を高速化する量子アルゴリズムを開発した。マテリアルズ・インフォマティクス(MI)や機械学習の要素を量子化学計算と組み合わせて実行できるワークフローの実装も進めているという。

 CQは、英国だけでなく日本にも研究拠点を形成したい考えで、専門知識を持つ人材確保も順次進めていくことにしている。


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