富士通が世界最速の36量子ビット量子シミュレーター

「富岳」と同じA64FXに最適化、化学など量子アプリの早期開発狙い

 2022.03.31−富士通は30日、スーパーコンピューター上に量子コンピューターのシミュレーション環境を構築し、36量子ビットを実現した世界最速の量子シミュレーター開発に成功したと発表した。大阪大学で開発された量子回路シミュレーターソフトを組み込んでおり、量子コンピューター向けアプリケーションを先行開発する使い道がある。金融や創薬などの分野を狙うが、富士フイルムとの間で材料研究向けアプリケーションの共同研究プロジェクトを推進することが決まっている。

 今回の量子シミュレーターは、「富岳」にも採用されているマイクロプロセッサー「A64FX」を搭載したスーパーコンピューター「PRIMEHPC FX700」の64ノード(理論ピーク性能=3.072テラFLOPS)で構成したシステム。大阪大学大学院基礎工学研究科の藤井啓祐教授の研究室で開発され、同教授が共同創設者として設立した量子コンピューティングベンチャーのQunaSysがメンテナンスしているオープンソース量子回路シミュレーター「Qulacs」を導入している。

 QulacsのA64FXへの移植に当たっては、A64FXのSVE命令を活用して複数の計算を自動実行することで、メモリーバンド幅(毎秒1,024GB)の性能を最大化。また、MPIによる並列分散実行で計算と通信をオーバーラップさせることでネットワーク帯域(毎秒12.5GB)を最大限に引き出すデータ転送を実現している。さらに、クラスター上の分散メモリーに展開される量子ビットの状態情報を、量子回路とその計算の進捗に合わせて効率良く再配置する新たな方式を開発し、通信コストを削減した。これらの工夫によって、36量子ビットの量子シミュレーターとして、海外などで開発されている他機種と比較して約2倍の性能を達成したとしている。

 今回の量子シミュレーターはIBMが開発したオープンソース量子ソフトウエア開発ツール「Qiskit」に対応しており、ソフト開発環境としても優れている。それに加え、QunaSysが提供している量子化学計算ソフト「Qamuy」を利用することも可能。量子化学計算の高速化も期待できる。

 今後は、複数の量子ゲートの演算をまとめて実行するゲートフュージョン技術などの強化を図り、今年9月までに40量子ビットの量子シミュレーター開発を図る。シミュレーターを活用して蓄積した量子アプリケーションの知見を、将来の量子コンピューター実機に反映させていくことが目的となっている。

 なお、富士フイルムとの共同研究は、今年4月からの1年間の予定で、革新的な材料設計手法の確立に向けて、計算化学領域における量子アプリケーションを開発する。分子の化学反応計算などにおいて、量子コンピューティング特有のアルゴリズムの検討や評価を行うという。

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<関連リンク>:

富士通(プレスリリース、大阪大学と富士通量子コンピューティング共同研究部門を設立)
https://pr.fujitsu.com/jp/news/2021/10/1.html

富士通(デジタルアニーラのサイト)
https://www.fujitsu.com/jp/digitalannealer/


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