アステラス製薬が医薬品ライフサイクル全体でDX推進

研究開発の費用60%・期間2.4年削減、ロボットによる自動化も

 2022.01.27−アステラス製薬は21日、デジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みに関するメディア説明会を開催した。最先端の「価値」主導型ライフサイエンスイノベーターを目指すとして推進中の経営計画2021に基づくもので、経営目標の達成に向けてDXが大きな要素の1つになっている。DXの取り組みは、創薬から開発、製造、販売、市販後調査までの医薬品ライフサイクル全体に及んでおり、研究開発の費用60%削減、研究開発期間の約2.4年削減、EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)の45〜75%改善といった効果が最終的に期待できるとしている。

 同社のDXは、デジタル×データを、Analyze(データ活用・分析による将来予測、大胆で正確な早期意思決定)、Automate(高品質かつ高速なオペレーション)、Engage(デジタルとアナログを組み合わせて人と人をつなぐ)、Sense(あらゆる事象をデータとして収集)−の4つのレバーに適用し、長年のScienceの知見を加えて競合優位性を獲得することが基本となっている。

 創薬分野で取り組んだのが、超大規模バーチャルスクリーニング。かねて社内サーバーを利用し、100万化合物を一度にスクリーニングできる体制を構築していたが、今回はAWS(アマゾンウェブサービス)のクラウドに移行し機械学習を活用することにより、数億化合物を一度に評価できる環境を準備中である。これまで1〜2年かかっていた計算が、1〜2週間で完了できると期待されるという。

 また、ロボットによる自動化を組み込んだ医薬品創製プラットフォームを開発中。人工知能(AI)で化合物をデザイン、物性評価を行い、スコアの高いものをロボットで自動合成、それに対しAIとロボットでアッセイ試験を行う。こちらはすでに1年間の稼働実績があるが、最終的な候補化合物の取得に2年かかっていたものが半年になったなどの成果が出ているという。とくに、完全な機械任せではなく、随所に人間の判断を介入させているところがポイントだとしている。

 さらに、細胞創薬プラットフォーム「Mahol-A-Ba」は、iPS細胞を扱うためのシステム。iPS細胞の扱いは人間の手技によるところが大きく、熟練者の不足が研究活動のボトルネックになっていた。「Mahol-A-Ba」は匠の目と手を持つロボットで、人間特有のばらつきがないことから、熟練者以上の高精度・高再現性で100〜1,000倍の規模の実験を実施することが可能だ。

 一方、臨床試験に関しては、患者の負担を小さくするリモート臨床試験“Decentralized Clinical Trials”(DCT)の取り組みを進めている。米国で遺伝性筋疾患に関する臨床試験で試験的に行っており、3〜5年後にはグローバル展開を目指していく。通院や拘束時間の負担を減らすことができ、患者とのエンゲージメントを高める効果も認められる。

 製造分野では、自社創成モノづくりデータマイニングシステム「DAIMON」の活用を進めている。生産データをリアルタイムに収集・管理し、網羅的な解析とモニタリングにより、品質や生産トラブルへの備えとしたもの。トラブル時の原因調査のほか、潜在リスクの把握と変動の検出、リスク予測とトラブルの未然防止に役立てている。AI的なものではないが、2018年から稼働しており、低分子薬の生産だけでなく、今後はバイオ医薬品への展開も検討している。

 そのほか、医師が求める情報を届けるオムニチャネルコミュニケーション、ファーマコビジランス業務の自動化に加え、基幹業務プラットフォームの刷新、サイバーセキュリティ対策の強化なども、DX推進の一環として取り組みを進めている。

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