超超PJが最終成果報告会、3月末終了で6年間の成果

試作回数・開発期間を1/20へ削減達成、19種類のモデル素材開発推進

 2021.01.23−超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト(超超PJ)の最終成果報告会が18日と19日、オンラインで開催された。国内で実施されたマテリアルズ・インフォマティクス(MI)関連プロジェクトのうち、経済産業省主導で行われたもので、今年3月末がプロジェクト期限。2016年からの6年間の開発成果が披露された。とくに、先端素材高速開発技術研究組合(ADMAT)に参加した18社の民間企業がそれぞれ目標を設定して、産業技術総合研究所(AIST)との協力でMIの実用化に取り組んだことが特徴で、全グループの成果が2日間にわたり発表されたことはまさに圧巻。プロジェクトリーダーを務めた産総研の村山宣光副理事長は、「MI技術を核とするスタートアップも生まれ、材料開発の方向性が変わった。プロジェクトは終了するが、これからがむしろ始まり」と、素材産業の国際競争力向上へ檄を飛ばした。コンソーシアムを結成してプロジェクト成果の活用を図る方針も示された。

 超超PJは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のもとで実施され、主に有機系材料を対象に、設計(計算機支援材料設計ソフト)と試作(高速試作・革新製造プロセス)、評価(先端ナノ計測評価)の三位一体の研究開発を実現するとともに、人工知能(AI)による逆方向予測などの技術を融合させ、従来の経験とカンに依存する材料開発と比べて、試作回数・開発期間を20分の1に削減・短縮することを目指してきた。

 実施体制は産総研とADMATとの集中研究方式だが、まずは個々に狙いたい開発目標に向けて、そのステップになりつつも、要素技術として共用化が図れるテーマを設定することに時間をかけたという。具体的には、半導体材料、高機能誘電材料、高性能高分子材料、機能性化学品(超高性能触媒)、ナノカーボン材料(CNT・グラフェン)の5分野で18+1件のモデル素材開発テーマを設けた。これに、13種類の基盤技術開発テーマが掛け合わさることによって、実際の開発が進んだことになる。(下表参照)

 この中では、あるモデル素材研究グループで開発した要素技術が、他のモデル素材研究に役立つなど、情報交換や技術交流が促進されたケースがみられ、集中研究方式のメリットが大いに発揮されたという。例えば、新しい構造記述子である数密度ECFP(Extended Circular Fingerprints)の開発。これは通常のECFPを構成原子数で割る考え方で、ポリマーの繰り返し的な構造的特徴を数値化することに成功した。この記述子を使うことにより、未知ポリマーの誘電率を予測することが可能になった。また、各社が持ち寄った秘蔵のデータセットを秘匿しながら回帰分析に利用する技術も、今後広く活用されることが期待される。

 6年間の累計での対外的な成果としては、特許が38件出願された。研究成果のプレスリリースは19件、論文は120報を発表、学会等での研究発表は440件におよんだ。とくに、計算科学関係は、基盤技術開発テーマとしては5つがあげられているが、実際のシミュレーターは9種類のプログラムが開発された。広範な時空間スケール、多様な材料・機能に対応したシミュレーター群で、オープン化して普及を図る方針。半導体材料やナノカーボン材料開発に適用できる(1)電気・光等のキャリア輸送シミュレーター(2)界面原子ダイナミクス・反応シミュレーター(3)モンテカルロフルバンドデバイスシミュレーター、高機能誘電材料開発に役立つ(4)誘電率等の外場応答物性シミュレーター(5)電圧印加粗視化分子動力学シミュレーター、高機能高分子材料開発向けの(6)拡張OCTA汎用インターフェース(7)フィラー充填系コンポジットシミュレーター、ナノカーボン材料開発向けの(8)ナノカーボンコンポジット用シミュレーター、機能性化成品開発に向けた(9)反応性流体シミュレーターがある。

 プロジェクト終了後は、計算シミュレーター/AI利用技術、プロセス装置、計測機器を材料設計プラットフォーム(MDPF)としてまとめ、データ駆動型材料設計技術利用推進コンソーシアム(略称・データ駆動コンソーシアム)を通して活用を図る方針。プロジェクト実施の過程で蓄積した研究データ、および論文や特許等からAI的な方法で抽出したデータは、「AIST Materials Gate データプラットフォーム」(DPF)として目的別に、「光機能性微粒子DPF」「配線/半導体材料DPF」「電子部品材料DPF」「機能性高分子DPF」「触媒DPF」のかたちで整備されており、学習用データから特徴量を抽出したり、未知の材料に対する予測モデルを構築したり、モデルを用いた逆方向予測を行ったり、予測モデルを別の機能予測に転用(転移学習)したりすることができる。コンソーシアム会員と産総研との共同研究や技術コンサルティングを通してMDPF内のソフトウエアや機器を利用することが可能。

 機器群もかなりユニークだ。設計した材料を高速に試作するプロセス機器は、化学反応制御から結晶成長制御、形態・形状制御、コンポジットの分散性制御まで、原子・分子オーダーからナノメートル、マイクロメートルスケールまで、広範な領域をカバーしている。プロジェクトにおいては、ナノ粒子合成、混練・発泡、フロープロセス、ナノカーボン材料作成などで実績を築いたが、さらに別のNEDOプロジェクトに引き継がれるテーマもあるようだ。一方、計測評価システムは、幅広いモデル材料に合わせて、短時間・高精度に、非破壊かつ“In-situ”(実環境や動作中)で、材料の構造や機能を評価することを狙っており、一般の計測機器とはかなり違うユニークなシステムが開発された。汎用計測では見えない情報や、組成・構造と物性・機能の相関、つまり機能発現メカニズムがわかるようになっており、これらも今後の活用が期待されるだろう。

 なお、データ駆動コンソーシアムは、ADMATに参加した企業は「一般A会員」としてDPFを利用することが可能で、会費は年間100万円。それ以外の企業は「一般B会員」となり、年会費30万円で、産総研との共同研究を行うことでDPFを使用できる。このほかに、アカデミックの研究者は「特別会員」として年会費なしでDPFを利用できることになっている。

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<関連リンク>:

先端素材高速開発技術研究組合(ADMAT トップページ)
https://www.admat.or.jp/

データ駆動型材料設計技術利用推進コンソーシアム(トップページ)
https://unit.aist.go.jp/cd-fmat/ja/c-dmd/index.html

産業技術総合研究所(トップページ)
https://www.aist.go.jp/

超超PJの基盤技術開発テーマ


計算科学 1 キャリア輸送マルチスケール計算シミュレータ
  2 外場応答材料と複雑組成材料の大規模計算シミュレータ
  3 機能性ナノ高分子材料のマルチスケール計算プロセスシミュレータ
  4 マルチスケール反応流体シミュレータ
  5 深層学習・機械学習(AI)、離散幾何解析
プロセス 6 自在なヘテロ接合素材の開発(ナノ粒子合成)
  7 ポリマー系コンポジット材料プロセス(ブレンド・発泡)
  8 自在合成を可能にするフローリアクター(ハイスループット)
  9 ナノカーボン材料プロセス
先端計測 10 表面・界面構造計測/ナノ領域多物性評価(和周波/ナノプローブ分光)
  11 有機(無機)コンポジット材料3次元構造解析(TEM、陽電子消滅、X線CT)
  12 フロープロセスの高感度In-Situ計測(XAFS、NMR)
  13 ナノカーボン材料の構造・物性評価

超超PJのモデル素材開発テーマ


半導体材料 1 高機能光学材料の研究開発 コニカミノルタ
  2 有機半導体材料の研究開発 東ソー
高機能誘電材料 3 高周波フレキシブル誘電材料の研究開発 日鉄ケミカル&マテリアル
  4 電場応答型高分子アクチュエーター材料の開発 パナソニック
  5 有機・無機ハイブリッド誘電材料の研究開発 村田製作所
高性能高分子材料 6 複合系の反応設計の研究開発 出光興産
  7 樹脂/無機フィラー複合材料の研究開発 カネカ
  8 機能性合成ゴム材料の研究開発 JSR
  9 フレキシブル透明フィルム(熱硬化性樹脂)の研究開発 昭和電工
  10 ナノ発泡断熱材料の研究開発 積水化成品工業
  11 スーパーナノコンポジット/アロイ材料の開発 DIC
  12 革新分離材料の研究開発 東レ
  13 異方性導電性フィルムの研究開発 昭和電工マテリアルズ
機能性化成品 14 多次元高度構造制御金属ナノ触媒の研究開発 宇部興産
 (超高性能触媒) 15 CO2を利用する有用化学品合成技術の研究開発 日本触媒
  16 天然資源からゴム材料の研究開発 横浜ゴム
ナノカーボン材料 17 CNT複合材料の開発 日本ゼオン
  18 CNT線材の開発 古河電気工業
  19 大面積グラフェン高速合成および積層技術の基盤開発 産総研


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