CCS特集2023年夏:ウェイブファンクション

NMR構造決定で新機能、ニューラルネット対応で予測

 2023.06.28−ウェイブファクションは、分子軌道法をベースにした分子モデリングソフト「Spartan」を開発。使いやすさと美しさで大学や高等専門学校などの教育用途で多く使われているが、低価格で本格的な並列処理に対応していることから企業向けでも実績を伸ばしている。同社は1991年に設立されてから長年の歴史があり、国内にも古くから使い続けているユーザーが多い。今後もそうしたファン層を大切にし、裾野を広げることでさらなる普及を目指していく。

 現在の「Spartan'20」は、標準で16スレッドまでのマルチコア並列処理に対応。17スレッド以上で無制限に使えるパラレルスイートGt16版との2種類の製品構成であり、並列処理が基本となっている。最近では、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)ハードウエアの導入に合わせ、Gt16版で高速な分子軌道計算を実施したいという企業ユーザーが多いということだ。

 同社では、分子軌道計算自体を目的とするのではなく、分子軌道法を用いた実用的なアプリケーションを示すことを開発方針としている。それを象徴するのが、前バージョンから取り入れられた「密度汎関数法(DFT)を利用した化学シフト計算」機能。弘前大学の橋本勝教授らとの共同研究に基づいて開発されたもので、核磁気共鳴(NMR)を用いた構造決定を自動化することができる。とくに、分子量が大きく配座の自由度が高い天然物の構造決定をターゲットにしている。

 この機能は現バージョンのSpartan'20でも機能強化されたが、開発中の次期バージョン「Spartan'24」では注目の新機能が搭載される予定だ。基本的に、精度の高い量子化学的手法によるエネルギー計算と構造最適化計算を段階的に実施して絞り込んでいるため、計算時間がかかるのが難点だったが、最新版ではニューラルネットワークによる予測が可能になる。DFT計算を実施した結果を学習させたモデルを搭載したもので、NMRで測定した実験データを入力すれば、最終的な化学シフト値が瞬時に出力される。計算速度に換算すれば、千〜1万倍速くなるという。

 現在、橋本教授らのもとでベータ版の評価が進んでおり、そのフィードバックを得て、製品化への最終ステップに至るもよう。Spartan'24としてのリリース時期はまだ未定だが、続報が待たれる。


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