米OpenEye:アンソニー・ニコルズCorporate VP & GM Research & Developmentインタビュー
クラウド利用し高速・大規模計算、DMTA最適化へ新たな開発も
2024.12.04−米国のOpenEye, Cadence Molecular Sciencesは、世界中の顧客を対象に創薬の加速を目的としたソリューションを提供している。2022年に米国を拠点とする電子設計(EDA)ソフトウェア企業であるCadence Design Systemsグループの一員となってからも、同社は創薬プロセスを迅速化する革新的な物理学ベース、科学主導のAIソリューションの提供に力を入れてきた。ライフサイエンス市場に重点を置くOpenEyeは、製薬会社、バイオテクノロジー企業、農業部門など多様な顧客にサービスを提供している。Corporate VP & GM Research & Developmentのアンソニー・ニコルズ氏(Anthony Nicholls)に、製品戦略や日本での事業展開などについて聞いた。
◇ ◇ ◇
− OpenEyeについて紹介してください。
「1997年に設立して、25年以上の歴史を重ねている。創薬モデリングのためのツールキットの開発からスタートし、分子形状や静電ポテンシャル等に基づくモデリング、バーチャルスクリーニングのためのアプリケーションを提供してきた。2022年8月からEDA分野の中心企業である米ケイデンスグループに加わり、「OpenEye, Cadence Molecular Sciences」として新たに出発した。といっても、大規模コンピューティングや物理学ベースのモデリング、サイエンスを重視する姿勢などはまったく変わっていない」
− 現在の主力製品であるOrionについて教えてください。
「Orion開発の原動力となったのは、研究対象の化合物ライブラリーが飛躍的に増大し、その結果、解析がより複雑になり、計算需要が大幅に増加したことだ。こうした課題に取り組むため、私たちはAWS(アマゾン ウェブ サービス)上で動作するOrion Molecular Design Platformを構築し、2019年に提供を開始した。Orionは、SaaS(サービスとしてのソフトウェア)ソリューションとしても、専用のクラウド環境を使ったエンタープライズ版としても提供可能だ。さらにNVIDIA社との戦略的パートナーシップは、強力なGPU(グラフィックプロセッサー)へのアクセスを提供することで当社の能力を強化し、当社の顧客が専用のクラウド・リソースの恩恵を受けられるようにしている」
− 計算創薬環境として、圧倒的なパフォーマンスを持つということですね。
「計算化学研究において、計算規模の拡大と精度の向上という2つの重要な優先事項がある。創薬においては、結合親和性、溶解性、膜透過性が重要な要素で、効果的な薬はこ3つのすべてにおいて優れている。OpenEyeは、高度な計算化学技術によってこれらの課題に独自に取り組んでいる。しかし、スケールアップと精度向上にともなう計算コストは相当なものになる。Orionの分子設計プラットフォームは、計算能力の制限を取り除くことでこれらの障壁を取り除き、適用可能な科学の範囲を広げている。Orion上で利用できるターンキーソリューションとしては、低分子化合物、抗体化合物、製剤などがある」
− Orionの普及状況はいかがですか。国内にもユーザーがいるそうですが。
「大手製薬企業からバイオベンチャーまで多くのユーザーがいるが、計算化学の導入はまだ発展途上だと感じている。計算化学の可能性がまだ十分に評価されていないところがある。Orionはこの5年間で14回のメジャーリリースを実施しており、最新のサイエンスを取り入れてきた。Orionは、数百億もの分子を超高速で2D/3D検索することができ、分子動力学法によってクリプティックポケットの特定や結合自由エネルギーの予測、さらに量子力学計算を驚くべきスピードで実行することができる。人工知能(AI)における大規模言語モデル(LLM)を応用した解析も模索している。今後も機能を充実させ、Orionの普及に力を入れたい」
− これからの開発計画も教えてください。
「1つは、創薬プロセスのリードオプティマイゼーションにおけるDMTAサイクル(デザイン、メイク、テスト、アナリシス)を最適化する製品を開発中だ。個人的に最も力を入れているプロジェクトで、ユーザー企業と共同で開発している」
− 日本市場の状況についてはいかがですか。2008年から日本での販売活動を行なっていますし、ユーザーフォーラムの「JCUP」も今年で12回目を迎えました。
「日本市場は新しいイノベーションよりも慣れ親しんだソリューションが好まれる傾向があり、ユニークな課題がある。私たちは科学研究や創薬を促進するための製品やソリューションを数多く発表してきており、日本のユーザーも徐々に増えつつある。私たちはたとえ時間がかかったとしても、辛抱強くこの市場に取り組んでいきたい。日本の創薬環境はイノベーションの最先端にあり、新技術を採用する機運が高まっていると感じるからだ。OpenEyeの製品がさらに広く受け入れられる時が近づいていると確信している」
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<関連リンク>
OpenEye, Cadence Molecular Sciences(トップページ)
https://www.eyesopen.com/jp