コンフレックスがMDソフトの最新版「ABMER11」を発売

溶媒効果で3D-RISM導入、GPGPUでの高速計算も

 2010.05.19−コンフレックスは、このほど分子動力学法(MD)ソフトの最新版「AMBER 11」を国内で販売開始した。米カリフォルニア大学を通して製品化されているもので、最新のアルゴリズムが搭載されたことに加え、パソコンのグラフィックボードを並列計算に活用する“GPGPU”対応により、最大100倍の高速計算が可能になったことが特徴。ソフト価格は民間向けが約260万円、アカデミック向けは約8万円となっている。

 今回のAMBER 11は、2年ぶりのバージョンアップに当たる。とくに、溶媒効果を考慮した計算で3次元RISM(3D-RISM)積分方程式モデルが新たに利用可能になったことが注目されている。これは、分子科学研究所の平田文男教授らが開発した理論で、統計力学を用いて分子性液体を扱う。たん白質などの生体分子の周りの溶媒の分布確率を求めることができるため、たん白質内部に閉じ込められた水分子の位置のように、一般的な分子シミュレーションでは難しい予測も行うことが可能。たん白質やその変異による分子認識能の予測、分配係数の算出・予測、量子化学計算と組み合わせた化学反応性の予測・解析−などの応用が期待されている。日本人が考案したアルゴリズムであるため、AMBER 11の新機能の中では国内の研究者の間で最も関心が高いという。

 その他の新機能では、AMAPねじれポテンシャルを含むCHARMMの電荷固定力場が新たにサポートされたことがあげられる。また、機能強化としては、配座遷移の低エネルギー経路を見つけ出す“Nudged Elastic Bandモデル”が拡張され、系の一部だけや実溶媒シミュレーションに適用可能となって実用性が大幅に向上した。ドッキングプログラムである「UCSF DOCK」との連携も強化されている。

 一方、これらに加えて注目を集めているのがGPGPUへの対応。米エヌビディアの“CUDA”をサポートしており、エヌビディアのグラフィックプロセッサー(GPU)を搭載したグラフィックカード(Fermi系の最新チップを推奨)を使っての高速計算が可能。AMBER 11全体は多くの計算プログラムで構成されるが、とくに周期系のMDシミュレーションを行う「pmemd」がCUDA対応となっている。

 開発グループのリーダーの1人であるロス・ウォーカー教授(カリフォルニア大学サンディエゴ校)によると、エヌビディアのGPGPU専用システム「Teslaシリーズ」(GPUを1−4個搭載)を用いたベンチマークで、仮想溶媒モデルでのヌクレオゾーム(原子数2万5,000個)の1ナノ秒間のシミュレーションにおいて、1台のTeslaが512コアのクラスターシステムと同等の性能を発揮したという。実溶媒モデルのシミュレーションでは、Tesla 1台でNSF(全米科学財団)が持つ Rangerスーパーコンピューターの48コアに相当する能力となる。AMBERのユーザーコミュニティの報告では、さまざまなシミュレーションで実際に30倍以上の速度向上が認められたということだ。

 ウォーカー教授は、「スーパーコンピューターを使いたいと思っても、1日以上待たされることが少なくない。これからは、まずは研究員1人ひとりにGPGPUシステムを配布することを優先すべきだ」と述べている。

 AMBERは、生体分子用MDプログラムとして標準的なパッケージであるため、過去にも多くのアクセラレーション製品が開発され、市場で販売された。ただ、それらは独自設計の半導体を使用した製品であったため、次世代チップへの世代交代が滞ったり、AMBERのバージョンアップへの追随ができなくなったりするなど、ユーザーが実際に使い続けるには制限の多いものだった。

 その意味で、GPUは定期的な世代交代による高性能化が保障されているほか、AMBER開発グループが自らGPU対応を手がけているため、ユーザーにとっては安心して利用できるようになるとの期待が高まっているようだ。


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