菱化システムが名古屋大学のX線結晶構造解析システムを商品化へ
粉末X線データから構造決定、独自の“HybridGA法”採用
2010.04.14−菱化システムは、このほど名古屋大学で開発されたX線結晶構造解析システムを商品化する権利を取得した。国産パッケージソフトとして10月からの発売を目指す。粉末X線回折データを用いて、原子数が100を越える自由度の高い化合物の構造を決定できることが特徴で、医薬品や有機機能材料の開発に役立つ。現在の技術では、50原子を超えると海外のソフトでも構造決定が難しいが、今回の製品は名古屋大学の特許技術を採用することにより、複雑な物質の構造を推定することが可能になったという。このため、海外での普及もにらんで商品化を進めていくことにしている。
医薬品や機能材料は、その分子構造だけでなく、結晶構造が薬効や物性に大きな影響を及ぼす。ところが、分子が複雑化するにともない、通常のX線解析にかけられる大きな単結晶を得ることが難しい場合が増えており、粉末X線回折データで構造決定を行う手法への期待が高まっている。
現在、モンテカルロ法やシミュレーテッドアニーリング法、遺伝的アルゴリズムなどを利用したソフトが開発されてきているが、いずれも考慮すべき自由度が増加するにつれて探索試行回数が膨大になってしまうため、現実的な解析範囲は50原子程度(自由度は20程度)の小さい分子に限られていた。
今回の元になったプログラムは、名古屋大学・工学研究科応用物理・構造物性工学研究グループの坂田誠教授らが開発したもので、「GAIA」(商標の問題で製品版の名称は変更になる予定)と呼ばれている。特許出願中の“HybridGA法”を採用し、2年前にSPring-8を用いて数ミリグラムの粉末試料からステロイド系の医薬品コハク酸プレドニゾロンの構造決定に成功した実績を持つ。
一般的な遺伝的アルゴリズム(GA)では、世代を重ねて望ましい母集団を絞り込んでいく際に悪いサンプルを一律に淘汰してしまうが、HybridGA法ではそうした悪いサンプルの近傍に解が隠れているという考え方で局所最適化操作を施していく。これにより、多数の鋭いピークが存在する多次元パラメーター空間でも、きわめて強力な広域的探索能力を発揮できる。それで、粉末X線回折のわずかな情報からでも多数の構造パラメーターを効率良く決定できるのだという。
菱化システムでは、HybridGA法の革新性やプログラムの性能・実績、さらには医薬品だけでなく有機機能材料などの研究開発に広く適用できることを高く評価し、今回の製品化を決めた。
具体的には、同社が販売権を持っているCCG社の分子設計統合ソフト「MOE」のGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)環境と統合し、データの入力から解析、推定した構造の可視化までを対話的に行えるようにする。6月末までにベータ版を完成させ、日米で開催されるMOEユーザー会で披露する予定。正式な製品化は10月1日を目指している。また、製品版はGPU(グラフィックプロセッサー)で並列処理を行う“CUDA”に対応させ、時間のかかるGA解析をさらに高速化することにしている。
それと並行して、ブラウザーで利用できるウェブ版の開発も進める。材料系の研究者向けには、MOE以外の材料設計支援ソフトとインターフェースをとることを計画している。
研究事例でSPring-8が使われていることからもわかるように、今回のシステムの性能を生かすためには、高品質な粉末X線データが必要になる。その意味でやや間口が狭いとはいえるが、MOEとの統合は海外展開の面では有利であり、市場を大きく広げることができるか、製品化が注目される。