新生アクセルリス:マックス・カーネッキアCEOインタビュー
総合力武器に広域展開加速、クラウド事業も前進
2010.10.30−アクセルリスは、シミックス・テクノロジーズを合併し、7月から新体制を発足させた。これにより、材料科学分野と生命科学分野の両方をカバーする分子モデリング/シミュレーションに加え、研究開発の基盤となるデータベース/インフォマティクス系の技術・製品を兼ね備えた巨大ベンダーが誕生した。今年の売り上げは1億6,500万ドルに達する見通しで、従業員数は600人(うち200人がPhD)、顧客数1,350社と、名実ともにCCS市場のマーケットリーダーたる陣容を誇る。とくに、1億6,000万ドルのキャッシュを保有しており、事業拡大に向けた今後の積極的な投資が注目されるところ。合併前に引き続いて新生アクセルリスの指揮を執るマックス・カーネッキア(Max Carnecchia)社長兼CEOと製品担当のトレヴァー・ヘリテージ(Trevor Heritage)上級副社長にこれからの戦略を聞いた。
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− 今回のように影響力のある2社の合併は、ユーザー企業にとってもインパクトが大きかったと思います。実際に顧客からはどのような声をいただいていますか。
カーネッキア 「アクセルリスにとって、合併はこれが初めてではなく、これまでに何度も繰り返してきた。しかし、過去には合併の成果としての十分な満足を顧客に与えられなかったケースもあった。それで、今回の合併には好意的な意見が多いが、製品の統合がきちんとなされるか心配しているユーザーがいることも事実だ。それらもしっかりと受け止め、気を引き締めていきたいと思っている」
ヘリテージ 「ただ、景気の悪いなか、ユーザー企業は厳しいコストダウンに迫られている。新生アクセルリスの規模のプロバイダーであれば、その総合力によってさまざまな問題解決が可能ではないかという顧客からの期待を強く感じてもいる。その点で信頼されるベンダーになれるように励みたい」
− 業界に与えたインパクトはどうでしょう。競合関係はどう変化しますか。
カーネッキア 「業界の問題というよりも、ユーザーがわれわれをどう見ているかが重要だ。不況が続くなかで、これまでのように目新しいソフトであればどこからでも何でも買うという時代ではなくなっている。ユーザーはコストや投資効果に敏感になっており、ソリューションの中身や企業としての信頼度など、パートナーに足るベンダーかどうかを厳しい目で評価している」
カーネッキア 「アクセルリスの来年の研究開発費は、業界2位のベンダーの売り上げよりも大きい。ただ、1社ですべてを提供できるとは思っていない。外部の優れたソフトや技術を取り入れ、オープンで幅広いソリューションを揃えていく。そうした過程で、ベンダーの再編をわれわれが積極的にリードしていく考えだ」
− なるほど。貴社には1億6,000万ドルの現金がありますし、M&A戦略が注目されますね。
カーネッキア 「広さと深さという2軸で考える必要があるが、基本的にわれわれは既存分野だけにとどまるつもりはない。ソリューションを広げるためのM&Aに重点を置きたい」
ヘリテージ 「医薬品開発を例にとると、研究・開発・製造・市販後という大きなステージの流れがあるが、最近では新薬の製造承認に当たって、開発時のプロセス合成やスケールアップ検討のデータを求められたために、それを準備する時間を取られて発売が遅れてしまったという事例があった。すべてのプロセスを貫く情報基盤が必要だ。いわば“R&D&M”で、R(研究)だけでなく、D(開発)やM(製造)に当たる分野で買収の可能性を検討している」
− わかりました。ところで、新生アクセルリスの売り上げは1億6,500万ドルと巨大ですが、ここ数年は売り上げ的には横ばい気味です。あらためて成長戦略を聞かせてください。
カーネッキア 「細かく言うと、数%の伸びはある。競合他社でマイナス成長に落ち込んだところもあるなかで、われわれは落ちてはおらず、利益は伸ばしていることを強調しておきたい。しかし、来年以降は既存製品だけでも2ケタ成長できると考えている。Pipeline PilotとIsentrisとの統合、Pipeline PilotとSymyx Notebookとの統合の価値が市場に理解され、支持されると確信している」
− その意味では、モデリング/シミュレーション分野の強化も期待したいところです。
カーネッキア 「もちろんだ。計算科学の新しいサイエンスには積極的に投資する。RからDやMへという流れを考えると、モデリング技術は非常に重要だ。Discovery StudioもMaterials Studioも、Pipeline Pilotとの連携が強化されてきているので、解析の自動化という意味で新しいユーザー層へのさらなる普及が期待できる」
− 個々の製品についても少しうかがいたいのですが、ちょうど1年ほど前にSymyx NotebookのSaaS(サービスとしてのソフトウエア)展開が発表されました。その後の状況はいかがですか。
ヘリテージ 「少数のユーザーで実績が出ている。CRO(医薬品開発支援機関)とのコラボレーションに際して、相手先とのプロジェクトに採用するケースがほとんどだ。当社としても、これらのクラウドソリューションの充実に向けて、さらに開発も続けている」
カーネッキア 「これはサービス事業なので顧客の要求にこたえることが第一だ。ニーズに合わせて展開していきたい」
− モデリング/シミュレーション分野でのSaaSビジネスの可能性はいかがでしょう。
カーネッキア 「シミュレーションでもクラウドのニーズは高まると思う。現実に、Materials StudioとDiscovery Studioから、Amazon EC2経由で必要に応じて計算ジョブをクラウドに流すことができる。そのように利用しているユーザーも実際に存在する」
− そうですか。進んでいますね。ところで、長年の懸案であるISISからIsentrisへの移行の状況はいかがですか。
ヘリテージ 「欧米では3分の2のユーザーが移行済みだが、日本市場が遅れていることは認識している。われわれとしては、顧客のスケジュール優先で移行してもらうことを前提としており、Isentrisのライセンスに切り替えてもらえれば、そのままISISも使い続けられるようにしている。両方を並行して稼働させながら、自分のペースで移行を進めてもらいたい。ISISのサポートを終了する考えはない」
− よくわかりました。最後に、日本市場向けにメッセージをお願いします。
カーネッキア 「日本の顧客の長年にわたる当社へのご支援に感謝したい。そして、これらからのわれわれの深いサイエンス、広いソリューションに期待してほしい。顧客とともに成功することがわれわれの願いだ」