アクセルリスが材料系「Materials Studio」の最新版5.5をリリース
量子力学計算で新手法採用、高速計算さらに磨き
2010.10.21−アクセルリスは、統合型材料系モデリングシステム「Materials Studio」の最新バージョン5.5をこのほどリリースした。とくに量子力学シミュレーション機能が充実し、太陽電池や二次電池、燃料電池、有機ELといった次世代エネルギー関連の材料研究に役立つ機能が大幅に強化された。これにより、化学・材料メーカーに加え、自動車・電気メーカーへのさらなる普及を狙っていく。また、最近では新薬開発などの生命科学分野でもMaterials Studioの高精度な量子力学計算を活用したいというニーズが拡大しており、今回の最新版ではそうした面も考慮に入れた改善も施された。
今回の最新版5.5では多くの機能強化が実現されたが、とくにポイントとなるのが量子力学計算機能の充実。密度汎関数法(DFT)プログラム「DMol3」に時間依存密度汎関数法(TD-DFT)機能が追加され、紫外線/可視光の吸収スペクトルなどの予測が可能になった。将来的には発光スペクトルの予測にも応用できるため、有機ELなどの材料開発に有効だと期待される。
TD-DFT自体はGaussianなどの他のプログラムにも搭載されているが、DMol3は大きな系に対応できる高速な量子力学エンジンとして長年にわたる安定性に富んだプログラムであり、DMol3でTD-DFT計算を行いたいというニーズはかなり高いという。
一方、DFTに基づく第一原理平面波・擬ポテンシャルプログラムである「CASTEP」には、速度重視の“エクスプレス設定”が追加された。材料スクリーニングを目的として、精度の低下を最小限に抑えながら高速処理に特化した計算設定を行えるようにしたもの。これまでのCASTEPでは、精度が落ちるような設定変更はできないようになっていた。
また、エクスプレス設定では、最適なパフォーマンスの得られるCPUコア数を自動的に選択する機能も付加されている。並列処理では、計算プロセスの同期などのCPU間通信が発生するため、単純にコア数を増やせば速くなるというわけではない。この機能によって並列計算の敷居が下がるとともに、スクリーニング用途での最大のパフォーマンスを引き出すことができるようになった。
一方、CASTEPとDMol3に組み込まれた分散補正機能は、分子結晶の計算精度を高めるオプションで、医薬分野のユーザーからの関心が高い。これまでのDFT計算では、ファンデルワールス力を考慮に入れていなかったため、有機結晶の構造最適化を行うと正しい解が得られないという問題があった。これに対し、今回の分散補正が入ったことにより、DFTを医薬分子の結晶多形の予測に応用することが可能。分子力学計算をベースにした手法で結晶多形を予測するツールは既存製品の中にも含まれているが、量子力学を使ってもっと精度の高い計算をしたいという要望も強かったという。
そのほか、計算結果を解析し可視化する機能も強化されており、とくにフェルミ面の表示が可能になったことを強く歓迎するユーザーも多いということだ。