富士通が材料系統合パッケージ「SCIGRESS」の最新版2.2をリリース
MD計算関連機能を重点強化、クラウドサービスも検討へ
2010.10.19−富士通は、計算化学統合プラットホームパッケージ「SCIGRESS」の最新バージョン2.2を今月からリリースした。分子軌道法(MO)、分子動力学法(MD)をはじめとするオリジナル計算エンジンのほか、外部のソフトベンダーや大学などで開発された計算エンジンを統合して、金属・セラミックスや触媒、半導体・薄膜、高分子・液晶、電池などの材料開発に利用できることが特徴。今回の最新版では、とくにMD計算機能が重点的に強化されている。将来計画として、クラウドサービスを検討していることも明らかにされた。
SCIGRESSは、基本的な分子モデリング機能と化学スプレッドシート機能を統合した基本パッケージに、各種計算エンジンとのインターフェースを組み込むことで幅広い用途に対応することが可能。具体的に、富士通側が用意した計算エンジンとして、半経験的分子軌道法のMOPAC2002をベースに改良した「MO-G」、励起状態を計算できる独自の半経験的MOプログラム「MO-S」、Materials Explorerに搭載されていた独自MDプログラム「MD-ME」、豊橋技術科学大学で開発された配座探索プログラム「CONFLEX3」、さらに分子力場法のMM2/MM3、拡張ヒュッケル、紫外・可視吸収スペクトルを計算する「ZINDO」が提供される。
さらに外部計算エンジンとして、蘭SCM社が開発した密度汎関数法プログラム「ADF」および「ADF BAND」、ナノ材料開発に適用できる国産の擬ポテンシャル密度汎関数法プログラム「PHASE」(フリー版)および「Advance/PHASE」(アドバンスソフト)、最新版の「CONFLEX6」(コンフレックス)および「MOPAC2009」(米スチュワート・コンピューテーショナル・ケミストリー社)が利用可能。そのほか、SCIGRESSのMOインターフェースはGaussianとGAMESSに対応することもできる。
さて、今回の最新版2.2では、とくにMD計算関係の機能強化が施されている。その1つが、非結合相互作用のポテンシャルパラメーターを最適化する機能。実験などで物性値がわかっているときに、計算結果がその値になるようにパラメーターを自動的に調整してくれる。密度、格子定数、拡散係数、静的誘電率、等温圧縮率、ずり粘性について、目標となる値を設定することができる。実際に何度か計算を実行して、計算結果が目標に近くなるパラメーターを探っていくという仕組みだ。
また、MD計算は計算条件の設定にコツがいるが、SCIGRESS2.2では時間刻み幅や熱浴の仮想質量係数、カットオフ距離、逆格子空間のカットオフの二乗、収束加速因子などの計算条件の推奨値を自動的に見積もる機能が追加された。パラメーターの自動調整と合わせて、MD計算の敷居が大きく下がったことになり、計算化学の専門家でなくてもシステムを使いこなすことができるという。
そのほか、複数の計算条件での実行手順を効率化する「リスタート計算の分岐機能」、計算結果のアニメーションをプレゼンテーションなどに利用しやすくする「AVIファイル出力機能」、NQSやPBSなどの「標準ジョブスケジューラーへの対応」などが新機能となっている。
一方、今後の開発ロードマップとしては、基本パッケージの操作性の改善のほか、MDのポテンシャルパラメーターの拡充、PHASEインターフェースの強化などが予定されている。PHASEの関係では、計算可能な特性を追加(IR・UVスペクトル、屈折率、弾性定数、熱力学的諸量など)、電子ごとの状態密度や部分状態密度表示などの解析機能の強化を行っていく。
さらに、同社ではクラウド経由で計算エンジンを利用できるようにするサービスを検討中だ。年に何回か計算のピークがあるような利用形態の場合、ピークに合わせて計算機やライセンスを導入しておく必要がなくなるため、コスト削減に役立つという。現在、ユーザーのニーズを調査している段階で、具体的に要望があれば来年度にもサービスインする可能性がある。