マイクロソフトがWindowsHPCサーバーの第3世代へ

開発環境からスケーラブルな運用まで一気通貫、夜間にWindows7マシン活用も

 2010.10.29−マイクロソフトは、Windows環境でハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)を実現する第3世代の「Windows HPC Server 2008 R2」(ウィンドウズHPCサーバー2008 R2)をベースにしたソリューションを11月上旬から提供開始する。国内ではパートナー21社と共同で事業展開し、技術的な敷居の高さなどからHPC導入に踏み切れなかった新しいユーザー層を開拓していく。並列プログラミング開発環境からPCクラスターでのアプリケーション実行、計算負荷に合わせたスケーラブルな運用まで、一気通貫でのソリューションを用意していることが最大の特徴となる。

 Windows HPCサーバー2008 R2は、2006年のWindowsコンピュートクラスターサーバー2003(WindowsCCS)、2008年のWindows HPCサーバー2008に続く第3世代のPCクラスター向けOS。初代は十数ノードクラスまでの小規模構成しかサポートできず、入門的な性格が強かったが、2代目からは数百から数千ノードに対応できる本格的なスケーラビリティーを身につけた。3代目のR2ではメニーコア時代への対応をさらに強化し、CPUとGPU(グラフィックプロセッサー)を組み合わせたヘテロジーニアスなHPCソリューションを容易に実現することができる。

 マイクロソフトは25日、本格出荷に先立ち、ユーザー企業やパートナーを集めて都内で製品発表セミナーを開催した。基調講演を行った米国本社のテクニカルコンピューティング担当ゼネラルマネジャーのキリル・ファエノフ氏は、「より精度の高いモデルでシミュレーションしたいという要求がかつてなく高まっている。スーパーコンピューターの専門家だけでなく、多くの研究者が日常的に並列コンピューティングを駆使する時代が訪れつつある。そうしたなか、当社に対してはHPCの敷居を下げてほしいという強い期待を感じる」と述べた。

 その意味で、最初の敷居がアプリケーションの並列化だ。「並列プログラミングは難しいし、高くつく。だが、これからの研究者にはそうしたスキルが不可欠になる」とファエノフ氏。同社の統合開発環境「VisualStudio2010」(ビジュアルスタジオ2010)による解決策を提案した。VisualStudio2010には、本体の機能に加え、インテルの「Parallel Studio」やエヌビディアの「PARALLEL NSIGHT」(CUDA開発環境)などのサードパーティー製ツールをプラグインできる機能が備わっている。これらを利用することにより、「既存のスキルで並列アプリケーション開発が可能」(ファエノフ氏)だとした。

 2番目の敷居はPCクラスターの構築と実行。構築の容易さについてはWindowsCCS時代からの定評があり、R2では数時間で数百ノードのマルチクラスター環境を構築できるという。パフォーマンスについても、Linuxに遜色ないレベルに達したとしている。

 ファエノフ氏がとくに強調したのは、エクセルとの連携と、R2からの新機能である“デスクトップコンピューティングクラウド”。エクセルによる計算をHPCサーバーで高速に行う機能は以前からあったが、今回の「HPC Services for Excel 2010」を利用すると、より洗練されたかたちで広大で複雑な計算式が含まれるワークシートを高速に処理することが可能。クライアント側では、エクセル2010の詳細設定画面で、クラスターを使用するのオプションにチェックを入れるだけでよい。

 一方、デスクトップコンピューティングクラウド機能は、簡単な操作でネットワーク上のWindows7マシンをクラスターのノードとして利用するもので、一時期注目された“グリッドコンピューティング”の機能を実装している。「HPCのためのハードは高価であり、IT投資の効率化が求められているなかで、安価なハードを動的に増設して処理性能を増やしたいという切実なニーズがある。この機能を使って、夜間に使われていないWindows7マシンを有効活用できる。何時から何時まで使用するという設定ができるほか、マウスが動かされたら解放するなどの使い方も可能」(ファエノフ氏)だという。この機能にはかなり期待が大きいようだった。

 Windows HPCサーバーは今後のアップデートによって、クラウドOSであるWindowsAzureとの統合が予定されている。これにより3番目の敷居が下がることになる。計算量のピーク期に、社内のPCクラスターを増設することなく、クラウドサービスを通して追加の計算能力を調達することができる。オンプレミスで稼働中のアプリケーションや管理ツールは、Azure上でも同じ感覚で利用できるため、違和感なくクラウドサービスを活用することが可能だという。

 なお、今回のR2の国内ソリューションパートナーは、伊藤忠テクノソリューションズ、HPCシステムズ、HPCソリューションズ、エス・ワイ・シー、兼松エレクトロニクス、クレイ・ジャパン、CAEソリューションズ、住商情報システム、デル、日本IBM、日本SGI、NEC、日本ヒューレット・パッカード、ニューメリックス・ジャパン、ビジュアルテクノロジー、ファナティック、フィックスターズ、富士通、ベストシステムズ、ミリマン、タワーズワトソン−の21社。


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