富士通が次世代ものづくり環境をクラウドベースで実現
社内アプリ/ノウハウなど提供、設計データなど効率良く転送可能
2011.06.22−富士通は21日、製造業の設計・開発業務をクラウド上で支援する次世代ものづくり環境として、「エンジニアリングクラウド」を10月から提供開始すると発表した。CADなどのアプリケーションをクラウド上で提供する「エンジニアリングクラウド/SaaS」と、ホスティングサービスを提供する「エンジニアリングクラウド/PssS」の2種類がある。エンジニアリングに特有の巨大な設計データなどを効率良く転送する独自技術を組み込んだことが最大の特徴となっている。利用料金は、月額数万〜数十万円のレンジで、3年間に100億円の売り上げを見込んでいる。
富士通は、製品企画・構想から、具体的な設計・開発、製品化を控えた生産準備・工程設計まで、PLM(製品ライフサイクル管理)領域を一気通貫にサポートする幅広い製品を提供している。
今回の「エンジニアリングクラウド」は、設計・開発で使用するためのアプリケーションやIT環境をクラウド上で提供しようというもの。SaaSとしては、まず富士通が社内で使用しているオリジナルのアプリケーションを提供するほか、解析や検証などものづくりの社内ノウハウも「富士通ものづくりノウハウサービス」として提供する。
10月のスタート時点では、アプリケーションとしてプリント板CAD、信号・電源ノイズシミュレーション、設計ルールチェック(DRC)の3種類のツールに加え、設計情報管理システム「PLEMIA M3」、環境情報管理システム「ECODUCE」が利用できる。アプリケーションは順次増やしていく計画で、機械設計・電気設計などのISVとも交渉を行っているという。
一方、PaaSはユーザー固有の設計・開発環境をホスティングするもので、立ち上がりはこちらの需要が中心になる可能性が高いという。
SaaSもPaaSも共通のエンジニアリング基盤を利用しており、低スペックのクライアントで高度な設計作業が可能になるところがポイント。これを実現しているのが富士通研究所が開発し、富士通アドバンストテクノロジが実用化した高速画像圧縮技術“RVEC”。クラウド基盤にデータを格納する仮想デスクトップにおいて、画像や動画を含む画面情報を10分の1に圧縮し、高速なデータ転送を行う。CADなどのアプリケーション側に手を加えることなく、大容量のCADデータを軽快に扱うことができる。これにより、一般的なノートパソコンをCADクライアントに使用することも可能で、CADデータの閲覧はスマートフォンでも簡単に行えるということだ。
富士通の試算によると、「エンジニアリングクラウド」の導入効果は、サーバー集約による運用コストが90%削減、シンクライアント化による電力消費量が65%削減など。さらに、複数拠点に分かれた開発体制でもタイムリーな情報共有が行えることや、在宅から設計チームに加わるなど新しいワークスタイルを可能にすることも大きなメリットになるという。
富士通は、日本以外にも米国と英国、ドイツ、シンガポール、オーストラリアにもデータセンターを有しているため、将来的にはグローバルなニーズにも対応が可能だとしている。