米アクセルリス:フランク・ブラウンCSOら3氏にインタビュー
ラボから市場までの統合基盤で研究開発支援、マルチベンダーのエコシステムで力
2011.07.10−アクセルリスは、シミックスとの合併後1年というわずかな時間で統合化された新しい製品体系“Accelrys Enterprise R&D Architecture”を確立した。計算化学系から情報化学系まで幅広いソリューションを持ち、対象領域を研究分野から開発分野へと広げてきている。6月に開催した「2011 Accelrys Japan User Group Meeting」で来日したフランク・ブラウン(Frank Brown)上級副社長兼CSO(最高科学責任者)、ジョン・マッカーシー(John McCarthy)製品戦略担当副社長、プリンシパルサイエンティストのマイケル・ドイル(Michael J.Doyle)マーケティング担当ディレクターの3氏に近況や今後の戦略を聞いた。
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− 当初の想像以上に早く統合が達成された印象です。
ブラウン氏 「今回は合併の相性が良かった。旧アクセルリスと旧シミックスで顧客はほとんど共通だったが、重複していた製品は15%しかなかった。製品の統合作業もスムーズに進んだ」
ドイル氏 「しっかりとしたプランニングのもとに着手したことが良かった。顧客からの理解も得られ、新体制の船出は順調だ。また、合併で企業規模が大きくなったのでリソースが十分にあり、大きなプロジェクトを手掛けることができるようになったことも重要だと思う」
ブラウン氏 「ただし、サイエンスのレベルは決して落とさない。これはアクセルリスにとって最も重要なことであり、科学的なイノベーションのために積極的な投資をしていく。実際、売り上げの20%以上の金額を研究開発投資に回している」
− 今回、「Accelrys Modeling and Simulation Suite」や「Accelrys Enterprise Lab Management Suite」など、“Accelrys Enterprise R&D Architecture”に基づいたスイート製品が登場しました。
マッカーシー氏 「Pipeline Pilot(パイプラインパイロット)をプラットホームにし、用途や使用者に合わせて最適なソフトウエアを組み合わせて利用できるようにすることが狙いだ。従来のモデリングソフトは専門家のためのツールだったが、今回のスイートによって専門家と実験科学者との間のコラボレーションが活性化される。これは、抗体医薬の開発などで非常に重要なことだと思う。専門家が作成したモデルを実験科学者が簡単に共有して利用できるほか、モデルの中身を理解して実験科学者自身が新しいモデルをつくりあげることも可能。専門家はもっと複雑なプロジェクトに時間を使うことができる。また、どのモデルがどれだけ使われたかを把握する機能もあるので、専門家の仕事を評価するうえでの判断材料にしたり、システムの導入効果をみえる化したりすることにも役立つ」
− 「Accelrys Enterprise Lab Management Suite」(ELMスイート)は旧シミックス製品をパイプラインパイロットで統合したものですね。
マッカーシー氏 「電子実験ノートブックのSymyx Notebook by Accelrysを基盤に、さまざまな機器から得られた情報を統合化する電子的な実験環境ソリューションだ。基礎的な研究領域にとどまらず、研究開発の下流域までカバーすることができる。例えば、抗体医薬の開発では、入口の抗体モデリングから分析や製剤、プロセス、非臨床/臨床まで、さまざまなステージから多数のデータが集まってくる。そうした情報を橋渡ししながら、研究から開発までのサイクルを回していくことが重要であり、ELMスイートはそうした統合環境を実現できる」
− ELMスイートをベースに、ユーザー固有の要求に対応するためのプロフェッショナルサービスを付加したソリューション「Accelrys Experiment Knowledge Base」(EKB)も発表されています。今回のユーザー会のドイルさんのセッションではその事例が紹介されましたが・・・。
ドイル氏 「それはシェルと共同で実施した事例で、2つのプロジェクトが含まれている。1つは触媒開発に関するもので、米国・欧州・アジアの3ヵ所の研究所において、パイロットスケールまでのデータを共通に取り扱えるようにしたいという要望だった。データが1日に1回出てくる研究所があれば、1秒間に30ポイントのデータが得られるという研究所もあり、それをどうやって共有するかで困っていた。2つ目は石油採掘のための世界中のサンプルデータを統一して扱いたいということだった。困難な研究テーマに向かって、グローバルに研究者の知恵を集めて対処できるようにするためだ」
− そのプロジェクトからはどんな成果が得られましたか。
ドイル氏 「触媒開発が大幅にスピードアップしたことで、原料事情に合わせて、エネルギーや環境の面でフレキシブルにプラントを稼働させられるようになった。2つ目のプロジェクトの場合は、そもそもデータが世界中に散逸していたので、一元管理すること自体が大きなメリットになっている」
マッカーシー氏 「シェルとの1つ目のプロジェクトは、触媒開発を例にして、ラボからマーケットまでを総合支援し、全体を時間短縮するというわれわれのコンセプトを具体化した好例だと思う」
ブラウン氏 「歴史のある大きな会社は、社内に宝を眠らせていることが多い。あらゆる情報を共有化し再利用できれば、大きな力を発揮できる」
マッカーシー氏 「ブリストル・マイヤーズ スクイブに電子ノートを導入した際の話だが、いままでの実験の3割が過去の実験を繰り返していたことがわかったという。そしてさらに重要なことだが、実験データの7〜8割は他の実験に関連していることが判明した。つまり、異なる実験に意外なつながりがあったということだが、こうしたことは電子ノートがなければ完全に見過ごされていたということだ」
ドイル氏 「P&Gでも、以前のデータが見つからないのでもう一度同じ実験を繰り返すことが多いという話があった。電子ノートを入れてデータベース化することで、重複実験を排除する経済効果は案外とバカにできないようだ」
− なるほど。かなり幅広いソリューションが整っていることがわかりました。ところで、今回のユーザー会の基調講演ではパートナーとのエコシステムということが強調されていましたが。
ブラウン氏 「やはり、1社ですべてをカバーするというのは現実的ではない。ERPの巨人であるSAP社もすべてを自分でつくっているわけではなく、外部のソフトベンダーがいろいろなソリューションを提供している。それと同様に、パイプラインパイロットを核にしたエコシステムを形成することがアクセルリスの重要な戦略だ。最初のころは他ベンダーに頼み込んでパイプラインパイロットに対応してもらっていたが、いまでは向こうの方からパイプラインパイロットのために製品を書き直し、バージョンアップし、新しいアプリケーションを開発してくれるようになった。われわれの戦略は正しかったと確信している」
− プレゼンの中では、パートナー製のアプリケーションとして、CHARMm、MODELER、ZDOCK、Delphi、GOLD、OpenEye、FieldStere、GRIDなどの名前があがっていました。
ブラウン氏 「われわれのエコシステムの威力を示す例として、今年のアメリカ化学会(ACS)でのコンペティションの話をしたい。それは、共通のデータセットで時間内にドッキングシミュレーションを行うというものだったが、たん白質の構造をいじらないこと、製品版のプログラムを使用することといった2つのルールがあった。このコンペの結果、ライバルのシュレーディンガー社は2つともルールを破ったのにわれわれに勝てなかった」
− それはすごいですね。
ブラウン氏 「今回は、アクセルリス製品だけではなく、オープンアイ社のソフトを組み合わせたハイブリッドアプローチでコンペに挑んだ。解析手順を完全に自動化できたのもわれわれのチームだけだった。単一のベンダーの製品では、試せる手法に限りがある。パイプラインパイロットなら、いくつもの手法を選べるし、自由に組み合わせることも可能だ」
ドイル氏 「それぞれの解析のステージでどのプログラムを使用するか、どのようにワークフローを組み立てるかが重要になる。とにかくいろいろな使い方ができるよ」
− わかりました。では、最後にまとめをお願いします。
ブラウン氏 「以前にジョンソン&ジョンソンでCIO(最高情報責任者)を務めていた時、研究開発を通して市場での競争力をいかに高めるか、そして全体でのコストダウンということを常に考えていた。これは多くのCIOに共感してもらえると思うが、研究のコストダウンはソフトを安く買うことではなく、研究の複雑さをいかに引き下げるかがカギだ。ラボの段階から製品が市場に出るまで、研究開発のサイクル全体を統合化された基盤で支援できるアクセルリスのソリューションに期待してほしい」