クロスアビリティが量子化学計算の高速化ソリューション
CPUとGPUの両方を活用、GAMESS用アドオンを開発・提供
2011.08.23−クロスアビリティ(本社・東京都文京区、古賀良太社長)は、計算化学パッケージ「XA-CHEM-SUITE」のさらなる充実を図り、量子化学計算の高速化ソリューションを提供開始した。分子軌道法(MO)プログラムとして有名なGAMESS(米アイオワ州立大学)に対応したアドオンを開発しており、CPUとGPUをダブルで駆使した高速計算を実現できる。一般的なスペックのパソコンでも数倍の高速化が可能だという。同社では今後、量子モンテカルロ法などさらに並列処理に適した計算手法の製品化にもチャレンジしていく方針だ。
同社は2008年1月に設立された独立系ソフト会社で、コンピューターケミストリーを中心とした計算科学事業のほかに、フィールドセンシング技術を用いたセンサーネットワーク事業を主な業務分野としている。現在のメンバーは4名で、計算科学事業では分子グラフィックソフトなどで知られるテンキューブ研究所(千田範夫社長)と提携関係を結んでいる。
「XA-CHEM-SUITE」はいくつかのプログラムで構成されているが、なかでも注目されているのがGPUを活用した「XA-CUDA-QM」。GAMESSのアドオンとして働き、フラグメント分子軌道法(FMO)計算を高速化できる。とくに、クーロンポテンシャルの一電子積分および二電子積分を加速することにより、トータルで約3倍に計算性能が高まる。この際、独自に改善したFMOアルゴリズムを組み込んでいるという。
エヌビディアの新しいFermi(フェルミ)コアを搭載したGPUに対応しており、年間ライセンス価格はグラフィックカード兼用のGeForce向けが7万2,000円(アカデミック4万8,000円)、GPGPU計算専用のTesla向けが9万8,000円(同7万2,000円)となる。
FMO計算のうちの多くを占めるSCF計算については、GPUでは高速化できないため、CPUの並列処理で対応する。このためのアドオンが「XA-SSE-QM」と「XA-AVX-QM」で、前者はインテルのSSE(ストリーミングSIMDエクステンション)、後者は同じくAVX(アドバンスドベクターエクステンション)に対応したCPUで動作する。このアドオンを適用することで、やはり計算が3倍ほど加速するということだ。
年間ライセンス価格は、SSE版のシングルノードライセンスが4万8,000円、サイトライセンスは50万円、AVX版は同じく7万2,000円と75万円となっている。
「XA-CHEM-SUITE」には、このほかに量子化学計算の結果を用いて巨大分子の相互作用の特徴を視覚的にとらえるようにする「XA-PIO」、エネルギー表示法による高速・高精度な自由エネルギー計算を行う「XA-ER」、共通のGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)環境を提供する「XA-GUI」が用意されている。
一方、同社では計算化学の次のトレンドとして量子モンテカルロ法(QMC)に注目しているという。並列化効率がきわめて高く、GPU処理に向いていることに加え、大きな系になるほど有用性が増すため、今後のHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)のトレンドであるペタスケール/メニーコア環境を生かしたアプリケーションになると期待されるため。長距離の電子相関が考慮できるというメリットもある。
現在、QMCを利用できる商用ソフトは内外に存在しないため、同社は国内の研究グループと共同で独自開発に乗り出す考え。10月からプロジェクトをスタートし、年内にもプロトタイプを作成したいとしている。