NIMSが物質・材料データを外部機関にライセンス供与へ

「MatNavi」で提供中のDB対象、サーバー丸ごと移設も可能

 2011.12.20−独立行政法人 物質・材料研究機構(NIMS)は、世界最大級の材料データベース(DB)「MatNavi」として蓄積・整備してきたデータを、民間企業などの外部機関にライセンス供与する方針を固めた。「MatNavi」では十数種類のDBがインターネットで無償公開されているが、検索・利用はオンライン上に限られ、データをダウンロードすることはできなかった。このため、DBの利用状況を秘密にしたい企業などからデータ提供の要望が強く寄せられていた。NIMS側として、ライセンス供与の準備は整っており、すでにいくつかの具体的な問い合わせも来ているという。このライセンス収入を開発費に充当することにより、安定的にDBの構築・整備が進んでいくと期待されている。

 NIMSの中核機能部門は、3拠点/7ステーションで構成されており、その中の材料情報ステーションが「MatNavi」を担当している。昨年7月にサーバーの入れ替えを含めた全面リニューアルが実施され、現在は基礎物性関係で高分子DB「PoLyInfo」、無機材料DB「AtomWork」、電子構造計算DB「CompES」、中性子反応DB「NeuTran」、界面熱伝達率DB「ITC」、拡散DB「Kakusan」、超伝導材料DB「SuperCon」、エンジニアリング関係で金属材料DB「Kinzoku」と連続冷却変態(CCT)線図DB「CCTD」、構造材料データシートとしてクリープの「CDS」、疲労「FDS」、腐食「CoDS」、宇宙関連材料強度「SDS」、金属組織「Kinso」、さらには材料リスク情報プラットホーム「MRiP」、複合材料熱物性予測システム「CompoTherm」、高分子物性推算システム、金属偏析予測システム「SurfSeg」、溶接熱履歴シミュレーションシステムといったアプリケーションも用意されている。ユーザー登録をすれば、すべて無償で利用でき、シングルサイオンで使いやすい。

 各DBの出自はさまざまで、旧金属材料技術研究所(NRIM)で測定されたデータだったり、科学技術振興機構(JST)プロジェクトの成果物だったりするが、全体として20年ないし50年ほど前からコツコツと蓄積されてきた貴重なデータがベースになっている。

 現在の登録ユーザーは6万人を超えており、毎月の平均アクセス数は約120万。全体の3割近くが海外からの利用者で、具体的には141ヵ国/1万8,121機関(10月末現在)の登録がある。月ごとに800−1,000人の新規登録があるが、リニューアル後は国内からの登録の伸びが大きいという。

 その半面、「MatNavi」の予算は毎年1割ずつ減少している。実際、今期の予算規模は、10年前に比べて半減しているという。そうした中で「MatNavi」の存続を図り、DBの更新や保守を行う費用にあてるため、中身のデータをライセンスすることを検討してきた。公開中のデータおよびシステムの著作権がすべてNIMS所有となり、権利問題がクリアになったことも、この時期にライセンス供与を開始する理由だという。

 基本的には、検索内容を知られたくないので社内で気兼ねなくDBを使用したい、あるいは自社のデータを統合してDBシステムを構築したいという民間企業の要望に応えていこうというもの。ライセンスの形態として2種類を想定している。

 1つはDBの中身(データ自体)の権利を供与するもので、契約者はデータを商業利用することも認められる。このケースの実例として、英グランタ社に対してクリープと疲労のデータシートに収録されているデータを提供する契約がまとまった。グランタ社とは2003年から協力関係にあり、グランタの材料DBサービスの中から「MatNavi」を検索することができるようになっていた。今回の契約により、「MatNavi」に収載されたクリープと疲労のデータがグランタ製品に完全に組み込まれることになる。このほか、高分子DB「PoLyInfo」に関しては、国内の民間企業から問い合わせが来ているということだ。

 もう1つは、OSやDBエンジンを含めて検索用のサーバーシステムを丸ごとライセンスする方式。この場合は、システム構築するためのコンサルティング的な業務をNIMSが担い、企業のイントラネット環境でDBが運用できるようにサポートする。いずれのライセンスについても、NIMSの研究連携室が窓口になっている。


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