CCS特集2012年冬:総論 バイオインフォマティクス

オミックス研究活性化で復権、注目されるNGSの大量データ解析

 2012.11.03−バイオインフォマティクスは、コンピューターの力を利用して大量の生物情報を処理・解析し、その中から有用な知識を引き出そうとする技術で、創薬と医療の両面で活用が進展している。とくに、次世代シーケンサー(NGS)をはじめとする分析器の発展は、研究手法自体を含め、得られる情報の質と量について大きな革新を生み出している。膨大な情報に対応するため、コンピューター側では“ビッグデータ解析”の適用領域として、生命科学があらためて注目を集めている。

 バイオインフォマティクスは、ヒトゲノム解読プロジェクトの関連で1990年代の終わりから2000年代初めにかけてブームが盛り上がったが、この時期に国の予算が大量投入された反動で需要が大幅なマイナスとなり、2004年には市場は一気にしぼんだ。2006年から2008年にかけて、ブーム期に参入したコンピューター系企業はほとんどが撤退・解散してしまっている。

 このブーム期に対象とされたのは主に“ゲノム”だったが、その後に網羅的な生物学情報を扱う“オミックス研究”が盛んになったことで、バイオインフォマティクスが再び存在感を高めてきている。

 現在では、とくにシステムバイオロジーとの関係で注目されている。これは、遺伝情報・シグナル伝達・代謝などから構成される細胞内のネットワーク情報を体系的に研究しようとするもの。なかでも、たん白質間相互作用のネットワークが創薬に応用されている。

 いわゆる分子標的薬もそのターゲットの一つで、システムバイオロジー創薬では、対象疾患に関係する網羅的で高精度な分子相互作用ネットワークを構築し、それを利用したターゲット推定、薬効が期待できる患者集団の遺伝的特徴の同定、複数同時使用化合物の選択などで計算モデルを活用するとともに、系統的な実験と臨床研究の効率的な実施を可能とする。将来的には、個別化医療の実現にもつながると期待される。

 こうした生物学的ネットワークを解明するために不可欠なのが各種の分析器で、最近では生物学的研究と薬剤探索を同時に行うことを可能にする自動細胞解析手法であるハイコンテンツスクリーニング(HCS)などが注目を浴びている。

 次世代シーケンサー(NGS)に代表されるように、最近の機器から出力されるデータは実に大量だ。NGSが登場した2007年ころは1回の動作で10億塩基(1ギガバイト)のデータを出したが、現在では1回に1,000億塩基(1テラバイト)ものデータを算出するに至っている。これを使えば、1度に5人のヒト全ゲノム解析をわずか10日間、70万円ほどの費用で行うことができるという。かつてのヒトゲノムプロジェクトが、配列の読み取りに10年、データ解析に3年、総計3兆ドルの予算を要したことを考えると、バイオインフォマティクスの進歩はまさに驚くばかりというほかない。

 NGSはゲノムだけではなく、エピゲノムやトランスクリプトームなどの分野においても多くの知識をもたらしてくれるが、あまりに膨大なデータ解析が問題となる。IT業界の今年のキーワードである“ビッグデータ解析”を含め、新しい解析手法やプラットホームの実用化が求められており、今後は網羅的な情報を創薬から医療の現場まで統一的に扱うための情報システムへのニーズが高まるだろう。また、医療への応用では臨床データの蓄積とデータベース化がカギになる。診断や治療の面で大きな革新が期待されるが、こうしたバイオインフォマティクスの活用は当面は創薬が中心となり、医療への本格的な展開はまだまだ時間がかかるとみられている。


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