今回の機能強化で、たん白質工学関係の機能が強化されたのは、医薬品開発の方向性が低分子薬からバイオ医薬品へとシフトしている状況に対応することを目的としてのもの。たん白質工学では、たん白質構造の特定の位置に変異を導入する“合理的設計”、ランダムに残基を置換し目的の特性を示す候補をスクリーニングする“指向進化”などの技術がある。これらは実験的な技術だが、今回のMOEには計算による解析や予測を通してこうした研究活動の指針を与える各種の機能が搭載された。
菱化システムが「MOE」の最新版2012.10をリリース
バイオ医薬品開発へたん白質工学機能を強化、新たな力場の搭載も
2012.12.08−菱化システムは、加ケミカルコンピューティンググループ（CCG）が開発した統合計算化学システム「MOE」の最新バージョン2012.10を、12月中旬から国内で提供開始する。毎年この時期にバージョンアップしており、低分子からたん白質までを扱う生命科学系システムとしてかなり成熟した機能を持っているが、今回はたん白質工学に関連してウェット系の研究者が関心を示すような領域への発展が目立つ。研究の両輪である計算と実験の距離を縮める存在になってきているという。
今回の機能強化で、たん白質工学関係の機能が強化されたのは、医薬品開発の方向性が低分子薬からバイオ医薬品へとシフトしている状況に対応することを目的としてのもの。たん白質工学では、たん白質構造の特定の位置に変異を導入する“合理的設計”、ランダムに残基を置換し目的の特性を示す候補をスクリーニングする“指向進化”などの技術がある。これらは実験的な技術だが、今回のMOEには計算による解析や予測を通してこうした研究活動の指針を与える各種の機能が搭載された。
具体的には、たん白質に変異を導入した際の熱安定性や抗原に対する親和性の予測、QSPR手法によるたん白質の物性計算（溶解度、粘度、安定度、凝集性など）、相互作用に関係するたん白質表面のホットスポット探索−といった新機能が組み込まれている。
また、翻訳語修飾（PTM）モデリング機能では、たん白質のアミノ酸残基の種類や立体構造の衝突を考慮し、グリコシル化やアセチル化、メチル化、ニトロシル化、硫酸化、リン酸化などの修飾を行う候補部位を選択し、モデル構築を行うことが可能。いわば、コンピューター上での仮想実験に近い機能が実現しつつあるという。
さらに、たん白質モデリングのための類似構造検索では、配列情報をまったく使わない新手法“二次構造モチーフ検索”が導入された。これは、ヘリックスやシートといった二次構造をベクトルとしてとらえて比較するもの。異なるたん白質の二次構造要素（SSE）を網羅的にマッチングさせる方法で、配列の相同性が極端に低くてもヒットすることが特徴。配列の相同性を重視する従来手法では、探索範囲は類縁たん白質を中心とした領域に絞られがちだったが、SSEを用いることにより、遠縁でも類似した構造を持つたん白質を引き当てることができる。
そのほか、今回の最新版では、化合物ライブラリーの作成からバーチャルスクリーニングまでの統合ワークフローが改善され、ベンチケミストにも親しみやすいものになってきたという。まず、ライブラリー構築に当たっては、使い慣れた反応式をそのまま活用することが可能。Ｒグループの組み合わせを変えてコンピューター上で母核と置換基のコンビナトリアル合成を行い、バーチャルライブラリーをつくりあげる。その際、反応点の定義、反応ルールや構造展開のルール適用を行うことができるほか、試薬データベースから反応物を自動的にリストアップしていろいろなＲグループを備えた生成物のライブラリーを構築することもできる。
すなわち、バーチャルなコンビナトリアル合成を行うと同時に化学的な知見を利用したスクリーニングを実施できるため、広大な化合物空間から有用な分子だけを選び出したライブラリーとすることが可能になる。
一方、計算化学の基本的な機能としては、新しい力場が搭載されたことが大きなポイントとなっている。従来の力場パラメーターは量子化学計算でのフィッティングによって決められていたが、生体高分子系と異なり、低分子は多くの原子タイプがあり、電子吸引性や共鳴構造も重要になるため、パラメーター不足の問題が常に付きまとっていた。
今回の最新版に搭載された新しい力場“R-UFF”（The Roche Universal Forcefield）は、これまでとは異なるアプローチでパラメーターの定義を行っており、原子タイプを使用せず、拡張ヒュッケル法による低レベル量子化学計算で得た値を結合長や結合角などを決めるためのQSPRモデルの記述子として使用している。もともとはロシュ社が開発した“MAB力場”として知られていたものだが、ロシュの協力によりさらに強化してMOEに組み込んだという。実際には、AMBER12力場と組み合わせて使用することで、たん白質とリガンドの複合体において、従来よりも多様な原子種に対応しつつ高精度な計算結果を得ることができる。
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＜関連リンク＞：
菱化システム（科学技術システム事業部のトップページ）
http://www.rsi.co.jp/kagaku/cs/
菱化システム（MOE 製品情報ページ）
http://www.rsi.co.jp/kagaku/cs/ccg/
CCSnews（MOE 2011.10の記事）
http://homepage2.nifty.com/ccsnews2/2011/4q/2011_4Qrsimoe201110.htm
