CCS特集2013年冬:総論 バイオインフォマティクス

健康寿命延伸産業の中核へ、予測的・予防的・個別化医療を実現

 2013.11.14−バイオインフォマティクスは、臨床応用の医療分野と、創薬支援の研究開発分野の両面で注目を集めている。とくに医療分野での展開は、政府が進めるアベノミクスの第3の矢である成長戦略とも関係が深く、その市場性には大きな期待がかけられている。

 日本の国民医療費は2010年度は約37兆円だったが、2015年度には44.6兆円、2025年度には60.4兆円にふくらむとみられている。そうしたなか、従来型の医療ではなく、予測的、予防的、個別化、参加型の医療が将来にあるべき姿としてクローズアップされてきているのが現状である。

 これは、医療費自体は抑制する方向にある一方で、医療そのものを含まない周辺産業を拡大させることにつながる。政府はアベノミクスの関連で日本再興戦略を打ち出しており、その中で医療の周辺を支えるヘルスケア産業を戦略市場創造プランに組み入れ、経済産業省を主体に「健康寿命延伸産業創出推進事業」を進めている。今年度は10億円の予算がつけられており、来年度以降も継続する予定だという。

 バイオインフォマティクスは、この「健康寿命延伸産業」の中核的な技術としての期待が大きい。予測的・予防的・個別化医療を実現させるためには、個人の遺伝情報が重要・不可欠になるためだ。個人の遺伝子が比較的簡単に読み取れるようになった現在では、遺伝子レベルで健康面のリスクを判定することも容易であり、それに加えて生活習慣データや過去の病歴・治療履歴データなどを含めたビッグデータ分析を行うことで、さまざまなサービスの提供が可能になるといわれている。

 これは、パーソナルヘルスレコード(PHR、個人健康記録)とも呼ばれる情報で、診療記録や投薬記録だけでなく、生活習慣に関連したデータも統合することにより、個人が健康情報を自己管理することに役立つ。また、エレクトリックヘルスレコード(EHR、生涯健康医療電子記録)として、患者の生涯にわたる医療情報を地域レベル・国レベルで共有・管理しようという構想もあらわれてきている。

 すでに、個人の遺伝子情報は、がんなどの診断や、特定の医薬品がきく患者グループに属しているかの判定などに利用されてきており、バイオインフォマティクスが個別化医療の実施において不可欠の技術となることは間違いない。

 一方、研究分野におけるバイオインフォマティクスの応用は創薬支援がメインとなる。これは、バイオインフォマティクス単独ではなく、ケムインフォマティクスや計算化学などとの組み合わせが重要で、バイオマーカーの探索や創薬ターゲットの同定などで実績があがってきている。標的たん白質の立体構造の解明、活性化合物の作用機序解明、新規化合物探索などその応用範囲は広く、すでに不可欠のツールとなっているのが現状だといえよう。


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