プロウスインスティチュート:ジョセフ・プロウスJr.副社長インタビュー

モデルベースの医薬開発支援技術で注目、成功例の自閉症薬がフェーズ1へ

 2014.06.04−スペインのプロウスインスティチュート(Prous Institute for Biomedical Research)は、独自のモデリング技術を生かした創薬研究・医薬品開発支援システム「SYMMETRY」で日本市場に攻勢をかける。同社はいわゆるインシリコ技術だけを武器とする単純なソフトウエアベンダーではなく、ウエットラボを持って実際に創薬を行うバイオテクノロジー企業であり、独自開発した自閉症薬が今年に臨床試験の第1相入りするという。同社の技術の強みや最近の活動について、研究開発担当副社長のジョセフ・プロウス・ジュニア氏(Josep Prous, Jr.)に聞いた。

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 同社は、前身のプロウスサイエンスから数えて50年を超える歴史を持っている。もともとは、国立バルセロナ大学のJ.R.プロウス教授が民間製薬会社の技術顧問なども務めるかたわら、ジャーナルを発行しはじめたのが始まりで、5種類のジャーナルを出版して1958年に会社を設立した。1980年代にはメインフレームベースのドラッグデザイン向けデータベース「MDDR」を開発、1990年代に入るとインターネット経由でオンラインデータベースサービスの提供を始める。とくに、2000年代に入ってサービス開始した「Integrity」は、豊富な情報量を武器に、日本だけで100機関に利用されるほど広く普及した。そして、2007年に全事業をトムソン・ロイターに売却し、その資金でSYMMETRYの開発に取り組んできたという。現在、菱化システムが国内代理店を務めている。

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 − SYMMETRYは、作用機序、安全性、ADME(吸収・分布・代謝・排出)、毒性、副作用、適応症、経路解析、ケモゲノミクスなど広範囲な予測モデルを搭載しています。これほど多様な予測ができるシステムは他にないですね。

 「創薬ターゲットと化合物の相互作用に基づく作用機序モデル、相互作用とは関係なく治療活性を予測する疾患ベースモデルに加え、毒性予測や薬物相互作用に基づく副作用の予測にも適用できるようになったことで大きく用途が広がった。製薬企業が自社の化合物をまったく新しい薬効・薬理とマッチングさせ、新しい適応症を探るとともに、ドラッグリポジショニングにも役立つとして注目されている。近年、新薬の成功率が下がってきているため、全体の開発コストが増大している。SYMMETRYでそうしたリスクを減らすことができる」

 「出版社時代に開発したBioEpisteme(バイオエピステメ)というソフトがもとになっているが、これは中身がブラックボックスだったのが問題だった。SYMMETRYではどうしてそういう解析結果になるのか、内部のサイエンスのすべてを明らかにしている。それも成功の理由の一つだと思う」

 − 米食品医薬品局(FDA)との共同研究が重要なステップになったようですね。

 「副作用や安全性の予測ができないかと相談されたことがきっかけだった。他の薬物との相互作用で重大な副作用が出たころのことで、許認可に先んじて評価したいということだった。出版社時代から世界中の安全性情報を収集してデータベース化していたので、そうしたノウハウを利用して副作用モデルの開発に成功した」

 − それ以外にも共同研究の事例がありますか。

 「米国立がん研究所(NCI)とは、がん細胞と化合物の網羅的な組み合わせで細胞毒性を予測するインシリコモデルづくりのプロジェクトを行っている。また、米国立トランスレーショナルサイエンス推進センター(NCATS)のTox21プロジェクトに参加している。8万化合物の毒性を予測することが目的で、ひとつひとつ検証していま200個が終わったところだ」

 − スペインの会社なのに米国の機関との関係が深いのですね。

 「FDAとは2006年からの付き合いだが、とてもフランクで新しいアイデアを積極的に受け入れる姿勢がある。カフェで話しているような感じでプロジェクトがどんどん進んでいく。スペイン政府と同じことをしようとすれば、7〜8年たってもまだ検討中という段階だろうね(笑)。それに、当社は50年前からドキュメントはすべて英語でやっているので、英語圏の人たちとは仕事がしやすかった。来年の初めには、ボストンのケンブリッジ地区に初の米国拠点を設けようと計画している」

 − SYMMETRYのサクセスストーリーは、すでにいくつかあるのでしょうか。

 「もともとは自分たちの創薬研究に利用していたシステムで、有効性が認められたので外販を開始したという経緯がある。その意味で成功例はわれわれが開発した自閉症薬(JRP655)で、特許を取得し、年内には臨床試験のフェーズ1に入る。そのほか、糖尿病薬ではモクレン由来の物質ですでに特許を取得しているし、ニューロプラスティシィティ(神経の可塑性)関係では自閉症のほか、アルツハイマー病やハンチントン病などもターゲットにしたい。今後は、製薬企業などに対するライセンス供与のビジネスにも拍車がかかると思う」

 − 日本市場についてはいかがですか。

 「日本には何度も来ているが、いつも反響が大きいと感じている。とくに日本の顧客は建設的な意見をくれるのでありがたい。良いフィードバックが得られ、技術の改善・改良に役立っている。日本で受け入れられれば、世界でも受け入れられる。菱化システムと協力して優れた技術を届けたい」

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<関連リンク>:

プロウスインスティチュート(トップページ)
http://www.prousresearch.com/

菱化システム(プロウス製品紹介ページ)
http://www.rsi.co.jp/kagaku/cs/prous/


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