アドバンスソフトが「Advance/PHASE」の最新バージョン3.3

電子顕微鏡のEELSを予測、第一原理計算と3D-RISMの連成計算も

 2014.09.03−アドバンスソフトは、材料設計に利用できる第一原理計算ソフトウエア「Advance/PHASE」の最新バージョン3.3を開発、8月下旬にリリースした。ナノスケールの材料のバルク特性、表面や界面の解析などに広く利用することが可能で、今回はとくに実験と関連付けた考察が可能になるような現実的なシミュレーションを実現させた。価格は年間ライセンスで100万円から。

 Advance/PHASEは、文部科学省プロジェクトとして実施された「革新的シミュレーションソフトウェアの研究開発」の成果をベースに、独自の機能拡張を実施して製品化したもの。今回のバージョン3.3では、構造最適化の新しいアルゴリズム“XGDIIS”、より良い初期電荷密度を生成できる“QEq”、バンドギャップがある材料の収束性を向上させる“仮想シフト”、スピン−軌道相互作用を考慮したバンド構造が計算できる“相対論ekcal”、シリコン結晶などに対する“陽電子寿命計算”、電子顕微鏡の測定結果を予測する“電子エネルギー損失分光スペクトル(EELS)シミュレーション”、第一原理計算に溶媒効果を取り入れる“3D-RISM-SCF法”−といった新機能が追加された。

 とりわけ注目されているのが、EELSシミュレーションへの対応と3D-RISM-SCF法の実装。EELSは、高エネルギーの電子線を試料に入射し、試料との非弾性散乱による電子のエネルギー損失を測定する分析手法。構成元素やその元素の局所原子配列、電子構造(結合状態)などの情報が得られる。

 計算方法としては、core軌道の波動関数を使用し、注目原子の擬ポテンシャルをcore-hole状態の擬ポテンシャルとして計算する。実測値と比べて、スペクトルのピーク形状をよく再現できることが確かめられているという。実測スペクトルと理論スペクトルを対応させることで、スペクトルのより詳細な解析が可能になる。

 次に、3D-RISM-SCF法は、統計力学に基づく溶液論の実装方法の1つである3D-RISM法を第一原理計算(SCF)と連成させて解く計算手法で、PHASEのような平面波基底のプログラムに3D-RISM法を組み込んだのは世界でも初めてだとしている。溶質を通常の第一原理計算で取り扱う一方、電子雲のつくる静電ポテンシャルのもとで溶媒分布を計算(3D-RISM)、さらに溶媒のつくる(溶媒和)ポテンシャルのもとで電子状態を計算(SCF)する。この計算を繰り返し、溶媒分布と電子状態が自己無撞着になるまで最適化するという手順である。

 具体的には、溶媒分子・イオンの吸着サイトを特定する“溶媒分布関数”、塩・極性分子の溶解にともなう熱力学量を評価する“溶媒和自由エネルギー”、溶媒存在下での安定性評価やポテンシャル曲面を求める“溶媒効果を考慮した全エネルギー”、溶液中の分子などの安定構造を探索する“溶媒効果を考慮した構造最適化”、電子状態に対する溶媒の影響を調べる“溶媒存在下でのバンド計算”−などのシミュレーションが行える。

 ソフトウエアのライセンスとしては、並列処理に制限はなく、同時稼働1ジョブの場合年間ライセンスで100万円、ジョブ数無制限のアンリミテッド版は同200万円。アカデミック用途は半額となる。動作環境としては、Windows 7 とRedHat Linuxで利用できる。

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 さらに同社では、今回のバージョン3.3のXeon Phi対応版も準備中。Xeon Phiはインテルが開発したアクセラレーターカード(PCIeカード)で、60コアのプロセッサーを搭載しており、1枚で倍精度浮動小数点演算性能で約1テラFLOPSの性能を発揮する。現在のスーパーコンピューターの世界最速機である中国の「天河2号」に採用されているほか、国内で民間に開放されている計算科学振興財団の「FOCUSスパコン」にもこれを搭載したマシンが用意されている。

 社内ベンチマークで、500原子ほどの固体のSCF計算を行ったところ、1コアのCPUと比較して45.2倍の計算速度を達成した。PCワークステーションに装着することにより、総合的にみてXeon Phi1枚でCPU4〜5個分の速度向上が見込まれるという。

 不純物や欠陥構造を含む500原子程度の固体SCF・バンド計算、100〜300原子系の第一原理分子動力学計算、不整合界面の高精度なシミュレーション、フラーレンやカーボンナノチューブなどのナノカーボン材料、貴金属ナノクラスターなどを対象にした計算が効果的に行えるとしている。

 こちらのリリース時期は今年12月を予定しており、RedHat Linuxにのみ対応。ソフト価格は年間ライセンスで民間150万円/アカデミック75万円、買い取り民間450万円/アカデミック255万円となる。

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<関連リンク>:

アドバンスソフト(トップページ)
http://www.advancesoft.jp/

アドバンスソフト(Advance/PHASE 製品情報ページ)
http://www.advancesoft.jp/product/advance_phase/


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