2014年冬CCS特集:第3部総論 バイオインフォマティクス
進展する創薬・臨床応用、生命情報の定量化がカギ
2014.11.14−ヒトゲノムの完全解読から10年が経過し、バイオインフォマティクスのフィールドは基礎研究から応用研究へと急速な広がりをみせている。次世代DNAシーケンサー(NGS)およびDNA合成機が産業界で普及するのにともなって、創薬研究と臨床研究との連携が進み、実際の患者のゲノム情報を生かした解析なども広く行われるようになってきた。そうしたなかで、バイオインフォマティクス研究はますます学際的な色彩を濃くしており、異なる分野の研究者間のチームワークが重要性を増している。生命機構をすべて解き明かすまでの道のりはいまだ遠いが、将来にわたる着実な進展が期待される。
最近のバイオインフォマティクスは、純粋な基礎研究ではなく、“出口”を意思した研究に変わってきたといわれる。つまり、創薬や医療など具体的な応用への期待が高まっている。端的にいうと、疾病に関係する遺伝子を探り出し、その遺伝子が発現するタンパク質を特定するとともに、そのタンパク質の機能を解明し、疾患に関係するメカニズムを阻害あるいは助長する化合物などを探索することにより、その疾病に対する治療薬を生み出すことができる。とくにその過程では、分析器・測定器との連携が重要になる。
なかでも、NGS技術の発展は、個体レベルでのゲノム配列情報(個別化ゲノム)を獲得したことに加え、定量的な遺伝子発現情報をもたらすことにより、高精度な生命機構解明への道をつける意味で大きな貢献をしたといわれている。NGSから出力される膨大な生命情報の解析にはバイオインフォマティクスが不可欠だが、ただ情報量が多いだけではデータの解釈の幅がむやみに広がってしまうので、統計的な分析やデータベース/知識ベースとの照合がポイントになる。
ゲノムや遺伝子発現、プロテオーム、メタボローム、さらにタンパク質構造情報などの多層的なオミクス情報の集積を質的にレベルアップさせ、それらをシステムバイオロジーの観点で体系化することが、単なる解釈ではない正しい理解を促すわけだ。
最近では、ゲノムワイド関連解析(GWAS)により1,500以上の疾病関連遺伝子が発見されているほか、創薬現場においても生物学的研究と薬剤探索を同時に行うハイコンテンツスクリーニング(HCS)、標的タンパク質とリガンドとの結合を評価するための表面プラズモン共鳴法(SPR)やサーマルシフトアッセイなどの新しい技術に注目が集まっている。また、発現したタンパク質を網羅的に調べることにかわって、特定のタンパク質の挙動を定量的に追跡するマルチプルリアクションモニタリング(MRM)といったターゲットプロテオミクスが主流になるなど、目的を明確にした解析が増えてきているのが最近の特徴である。
今後の課題としては、複数の遺伝子が同時に関係する疾患を発見し、その機構を解き明かすことがポイントになるといわれている。より多くのデータを集めて解析し、生命科学の知識を積み上げていく粘り強い努力が、引き続き重要になりそうだ。