マトリックスサイエンス:田中直樹代表取締役インタビュー

設立10周年・顧客満足を最優先、もうけ主義に走らず

 2014.10.15−英マトリックスサイエンスの日本法人が、設立10周年の節目を超えて11年目に突入している。同社は、質量分析(MS)データをもとにタンパク質の同定を行う「Mascot Server」を中心にしたプロテオミクス研究ソリューションの専門ベンダーで、さまざまなメーカーの質量分析計と合わせて利用する業界標準ソフトの地位を確立している。日本法人の田中直樹代表取締役は、「海外の技術系ソフトを日本市場にどうやって根付かせるか、いかに事業として成り立たせるかを考えてきた。おそらく呉服屋さんに近いのではないか。市場は小さいが、毎年新しい柄が出るし流行もあって、時流に敏感でなければならない。そうした業態では、お客さんに満足してもらうことを最大の価値として、良いお客さんをしっかりとつかまえておくことが重要だと思う」と話す。

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 同社は、1990年代末から2000年代にかけてのゲノムブームの時期に誕生して発展したベンダー。主力製品の「Mascot Server」の発売は1999年である。国内では、代理店を通して2000年からビジネスを開始した。

 当時はプロテオミクス研究の黎明期で、各種タンパク質の機能解明がおもな関心であり、重要なタンパク質を探索するために、試料を網羅的に調べてそこに含まれるタンパク質をすべて同定したいというニーズが強かった。その目的で威力を発揮したのが「Mascot Server」で、MS装置に付属のソフトよりも高機能で使いやすいことから利用者が広がり、いまでは主要なMSメーカー自身がマーケティングパートナーとなって、ソフトの普及に一役買う関係になっている。田中氏は、「研究自体のトレンドとしては、特定のタンパク質を定量的に調べるターゲットプロテオミクスの方向が主流になりつつあるが、創薬など新しいターゲットタンパク質を発見したいというニーズがまだあるし、いまも新しいユーザーが増えている。長年Mascotを使っているエキスパートユーザーと、新しい初心者的なユーザーと、それぞれに合わせたトレーニングコースを設けている。日本語テキストを完備しているので評判が良い」という。

 さて、日本法人「マトリックスサイエンス」が設立されたのは2003年11月のこと。それまでCCS関連の大手代理店に勤めていた田中氏は、「いろいろなメーカーと付き合ったが、使いにくいソフトを高額で販売するなど、日本市場を金儲けの場所としかみていない企業もあった。それで、設立時には英国本社と徹底的に議論し、もうけ主義に走らないことや日本のユーザーを大切にすることなど、くどいくらいに確認した。さらに、本社の言いなりにならないように、日本法人の資本金の4割を日本人スタッフで出資した」と振り返る。

 2007年からは米プロテオームソフトウェアの「Scaffold」(タンパク質同定検索エンジンの結果を取り込んでデータマイニングや定量解析を行うソフト)の取り扱いもはじめたが、「実は英国本社に先方から提携の話が舞い込んだのが最初で、その話はまとまらなかったが、Mascotとユーザーが共通なので日本ではやりたいと許可を得て契約したものだ。やはりこれも、最初にメーカー側ともうけ主義の事業展開はしないという合意のもとでスタートした」と田中氏。これまで、「顧客に迷惑をかけず、開発とサポートを長期的に続けていくことを最優先に考えてきた」という。

 日本法人の経営としては、この10年間黒字を出し続けている。「会社が存続できなくなればユーザーに迷惑がかかる。ただ、基本的に会社を大きくしようとは考えておらず、売り上げも10年間ほとんど変わっていない。経費を抑えているので黒字を保っている。成長至上主義を否定するものではないが、技術系ソフトのニッチ市場には案外合っている戦略だと思う」と笑う。

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http://www.matrixscience.com/


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