2015年夏CCS特集:シュレーディンガー
力場の高精度化を実現、材料科学分野でも実績着々
2015.06.25−シュレーディンガーは、リード化合物の探索と最適化を中心とした低分子創薬スイート、タンパク質モデリングとドッキング解析などの生物学スイート、電子材料設計などをターゲットにした材料科学スイート、データ共有とコラボレーションのための研究インフォマティクススイート−の4つの領域をカバーするソリューション群を提供。受託研究などのサービス事業も、米国でサノフィと1億2,000万ドルの契約に成功するなど際立った成果をあげつつある。
同社の各スイートは全部で30種類を超えるパッケージソフトで構成されているが、最近とくに関心が高いのがグラフィックプロセッサー(GPU)に対応した分子動力学エンジン「Desmond」を用いた自由エネルギー摂動法(FEP)計算「FEP+」である。GPUで高並列処理を行うことにより初めて実用的になった計算手法として注目され、需要が本格化してきている。同社ではエヌビディアのGPUモジュールを装着したサーバーの販売も行っており、購入してすぐに計算が始められるとしてユーザーから好評を得ている。
また、オープンイノベーション型で外部機関と共同研究を行う際のコラボレーション基盤となる「LiveDesign」も欧米では実績が増加。もともとはグラクソ・スミスクラインと共同開発したものだが、ブリストルマイヤーズ・スクイブなど数社に導入が広がっているという。国内では、今秋に開催するユーザー会で詳しく紹介し、本格的に立ち上げたい考えだ。
一方、技術開発の動向としては、モデリングの基礎である力場の高精度化に力を注いでいる。力場をベースにした分子力学計算では、パラメーター不足という問題が長年付きまとっている。シュレーディンガー製品に使用される標準の力場は“OPLS 2005”だが、ケミカルスペースのボンド当たりのカバー率を93%(分子当たりのカバー率は67%)に高めた“OPLS 2.1”が最新版として提供されている。不足しているパラメーターを補うためのフォースフィールドビルダーも用意されており、Jaguarなどの計算プログラムを使ってパラメーターを作成することが可能。ちなみに、かつて多用された“MMFF”はボンド当たりカバー率はわずか6%(分子当たりカバー率は0%)だったという。
さらに今年、新たに洗練された“OPLS 3”を提供する予定。とくに、タンパク質のパラメーターを徹底的に見直しており、数十ナノ秒といった長時間スケールの分子動力学計算でも不具合が生じることがなくなった。劇的に力場の精度が向上しているため、Desmondと組み合わせればFEP計算でも大きな恩恵があるという。
一方、材料科学分野でも、九州大学最先端有機光エレクトロニクス研究センター(OPERA)と今年2月に特別なライセンス契約を結んだ。日本におけるリファレンスサイトとなるもので、国内の材料系市場における足がかりとして注目される。