分子機能研究所の辻代表が反応面立体選択性で新モデル提唱

フロンティア起動理論を拡張、矛盾・例外事例をすべて説明

 2015.05.08−分子機能研究所(本社・埼玉県三郷市)はこのほど、辻一徳(つじもとのり)代表が有機化学反応における重要未解決問題である反応面立体選択性に関する原理の解明に成功したと発表した。「Asian Journal of Organic Chemistry」誌に「Geometrical Dependence of the Highest Occupied Molecular Orbital in Bicyclic Systems」のタイトルで論文が受理された。今回の発見により、これまでのモデルで矛盾・例外とされていたケースをすべて理論的に説明できることが確かめられたという。化合物を設計する段階で有機合成の立体選択性を精確に予測・考察できるため、医農薬など産業界の研究開発にも大きく貢献する可能性がある。

 速度論に支配される有機化学反応の場合、試薬との反応が反応点に対してどの方向から優先的に起こるかを知ることは非常に重要である。これが立体選択性と呼ばれる問題で、立体的に小さい置換基の側から起こる反応が優先されるという「クラム則」、遷移状態の安定性を考慮した「フェルキンモデル」、それに軌道論を導入した「フェルキン−アーンのモデル」「シープラックモデル」など、さまざまな理論や仮説が提唱されてきている。しかし、いずれも例外的な立体選択性を示す反応が存在することが指摘されていた。

 今回の辻代表の研究は、包括的なモデル実験と最先端の計算化学・理論有機化学を駆使し、過去に報告された実験結果に矛盾しない新たなモデルを発見したというもの。同社では、フロンティア軌道理論を拡張する成果が得られたとしている。

 辻代表は、計算化学を用いた解析により、分子構造(幾何学)に応じて特定のσ(シグマ)軌道がスルースペース/スルーボンド軌道相互作用によってフロンティア軌道に混成されることを突きとめた。その結果、リハイブリダイゼーションによってπ(パイ)軌道の傾きと大きさが試薬が攻撃してくる方向に有利に変化する。このことが、立体選択性を示す本質的な原理であると結論している。

 辻モデルを適用すると、遷移状態を考えなくても、基底状態の軌道混合則だけで反応面の立体選択性を判断することができる。多くの試行錯誤的な実験が不要になるならば、そのインパクトは大きいといえそう。

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<関連リンク>:

分子機能研究所(トップページ)
http://www.molfunction.com/jp/index.htm

Asian Journal of Organic Chemistry(オンラインライブラリートップページ)
http://onlinelibrary.wiley.com/journal/


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