NIMSの材料インフォマティクスプロジェクト「MI2I」がキックオフ

第1回フォーラム開催、蓄電池・磁性・伝熱制御で実証へ

 2015.09.09−物質・材料研究機構(NIMS)が科学技術振興機構(JST)の支援を得て推進する「情報統合型物質・材料開発イニシアティブ」(MI2I)のキックオフを記念する第1回MI2Iフォーラムが7日、東京・千代田区の学術総合センターで開催された。材料開発の方法論を覆す“材料インフォマティクス”の実用化を目指す初の国家プロジェクトとして注目度は高く、300人以上の聴講者が集まった。これまでの材料研究は、与えられた物質の構造や機能を調べる演繹的/順問題的手法で行われているが、材料インフォマティクスは膨大なデータを解析することで帰納的/逆問題的な研究手法を具体化できる。望ましい特性を備えた材料を設計するための指針が得られることが特徴だ。プロジェクトでは、まず蓄電池材料、磁性材料、伝熱制御材料にターゲットを絞り、早期に有用性を実証していくことにしている。

 MI2I(エムアイ・スクエア・アイ)は、JSTの「イノベーションハブ構築支援事業」の枠組みで今年7月にスタートし、5年間にわたって実施される。主にNIMSのハブ拠点に向けて全国の大学や研究機関、企業から研究者を糾合するかたちで運営されるが、具体的な社会実装を狙っているため、サテライト拠点の設置も計画している。産学官連携の新スタイルも模索しており、ものづくりの最前線にいる全国の中堅・中小企業が関わりやすいように、地方自治体との連携も視野に入れていきたいという。

 プロジェクトの運営体制としては、寺倉清之プロジェクトリーダー(NIMS)、伊藤聡プログラムマネジャー(JST)のもと、実際の研究グループとして、データベースやツールを構築する「データプラットフォームグループ」「データ科学グループ」「物理モデリンググループ」、さらに出口課題に関する研究を行う「蓄電池グループ」「磁性グループ」「伝熱制御グループ」が組織されている。

 フォーラムの開会あいさつでは、NIMSの潮田資勝理事長が「世界最高峰のイノベーションハブをつくりあげたい」と表明。JSTの中村道治理事長は多くの研究者がデータを公開し共有することが必要だと強調し、「これは新しい文化になる。オープンサイエンスの先鞭をつけたい」と述べた。実際、材料インフォマティクスは既存のデータベースの枠を超える大量のデータが必要になるため、企業の協力も不可欠になると考えられる。今回、企業の参加についてはコンソーシアム方式を検討しており、来年初めに開催予定の第2回フォーラムでその制度を示したうえ、2016年度から具体的にコンソーシアムの活動をスタートさせたいという考え方が示された。

 フォーラムでは、参加予定企業として、トヨタ自動車、日立製作所、新日鉄住金、ナノテクノロジービジネス推進協議会が、MI2Iへの期待について講演。全体として、材料開発期間の短縮と革新的新材料の創出に向けた期待感が大きかった。また、会場の声としては、「課題を3分野に絞らず、材料開発の全方位への適用を目指してほしい」「5年で完了するプロジェクトではないので、継続的な取り組みを視野に入れてほしい」などの要望が出た。

 技術的には、大量のデータをどう集めるかが当面のポイントになるだろう。通常のデータベースは専門家が文献を読んでデータの信頼性を担保しているが、材料インフォマティクスに用いるデータはテキストマイニングや計算科学の大規模な実施など機械的な収集法がメインになってくるとみられている。会場からの質疑では計算科学には精度のばらつきがあるため、それをデータ源とすることの不安を指摘する意見もあった。これに対し、プロジェクト側は個々のデータの信頼性の度合いを明示する必要があると回答した。

 また、寺倉プロジェクトリーダーは、講演の中で人工知能/機械学習技術の進歩について触れ、材料インフォマティクスでもこれが重要な要素になるとの認識を示した。今後、どのような成果が得られるか、非常に興味深い。






























******

<関連リンク>:

物質・材料研究機構(トップページ)
http://www.nims.go.jp/

情報統合型物質・材料開発イニシアティブ(データプラットフォームに関するアンケートページ)
https://mi2i.nims.go.jp/question/mi2i_quest2015.html


ニュースファイルのトップに戻る