米CASのグズマン社長会見:新領域へ製品展開を加速
豊富なコンテンツを生かすソリューション、来年まずワークフロー関連
2015.10.29−米国化学会(ACS)の情報部門であるケミカル・アブストラクツ・サービス(CAS)のマニュエル・グズマン社長(Manuel Guzman , President)は27日、今後の方向性や来年以降の製品戦略などについて、都内で記者会見した。化学物質に関して世界最大の情報量を抱える強みを生かしつつ、今後はデータベース(DB)そのものに加えて、具体的な研究課題を解決するためのワークフローやデシジョンサポート領域で新しい製品やサービスを展開していく方針。CASのサービスの利用者は、科学技術の最前線である欧米や日本が主体だったが、その市場を他地域へも広げるため、この1年半でグローバルオペレーションのスタッフを3倍に増員。今後1年間でさらに3倍増させるとした。
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グズマン社長は、「テクノロジーの進歩は、データコンテンツを冊子体から電子媒体に変えただけでなく、DBづくりのプロセスそのものも革新し、以前とは比較にならないほど安く速くDBを開発することが可能になった。また、検索技術の発達により、情報の取得が非常に迅速に行えるようになった。このように、情報量が増え、ユーザーの要求が高度化するにつれて、コンテンツだけの価値は相対的に低下してきている。ユーザーが情報を使いこなすことを助けるワークフローやデシジョンサポートが重要になってくる」。
新たな製品展開の方向性としては、現在の主要顧客である化学・医薬分野の企業・大学などに新たな付加価値(ワークフローやデシジョンサポート)を提供する方向と、他分野・他領域の顧客を開拓する方向の2つがある。他分野としては、ライフサイエンスおよびマテリアルサイエンス分野のポテンシャルが高いとした。
一方、地域的な広がりも重要で、「メキシコやブラジルに本格的に進出し、中南米地域の業界団体や学識者らを組織してアドバイザリーボードを立ち上げようとしている。また、シンガポールや韓国にスタッフを配置したことに加え、中国での存在感を高めたいと考えている。今後グローバルオペレーションをさらに増員し、ロシア、ウクライナ、インドなどへも展開したい」(グズマン社長)とした。
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当日には、「ソリューションズサミット」と題したイベント(講演会)も開催されたが、その中では来年以降の製品戦略がいくつか披露された。
まず、ワークフローソリューションの第1弾となるのが「MethodsNow」で数ヵ月以内にリリースできるところまで開発が進んできているという。これは、分析化学のメソッド開発などに役立つ製品で、テンプレート化されたアプローチによりラボの分析者が自分で問題解決のために使用することができる。分析物や基質で検索した結果をファセット分類の方法で解析し、検索集合を絞り込んで、コンペア機能を使っていくつかの分析プロトコルを並べて比較検証することが可能。問題に対するベストプラクティスを簡単にみつけることができるという。
次に、今年SciFinderに搭載されて好評を博した「PatentPak」が、STN新プラットホームでも利用できるようになる。これは、特許調査を大幅に効率化するツールで、検索した特許全文を簡単に入手することができる。特許ファミリーがまとめられているため、別の言語で出された特許も直接リンクされていることが特徴。特許全文は通常のPDFのほか、注記付きのPDF+、対話型ビューアー「PatentPak Interactive」で閲覧できる。とくに、重要な物質が記載されている特許請求範囲または実験セクションのページ番号が明記されていて該当箇所をみつけやすいほか、物質のコンテキスト(資料中の出現箇所)にダイレクトに飛ぶこともできる。
SciFinderも来年には大幅な機能強化が予定されており、新しい物質や反応の探索が容易になる機能が搭載されるということだ。今回は、とくに「ReactionProtocols」と呼ばれる新機能が紹介された。
これらに加え、1〜2年後の製品として計画されているものとして、製剤と製剤プロセス関連が注目されている。特許の動向を調べると、過去10年間に製剤と製剤プロセスに関する特許は80%増加しており、ここ5〜6年間では農薬大手企業からの出願が急増しているという。そこでCASでは、製剤と製剤プロセスの新規性を迅速に評価できるようなデータ構造を考え、特定の物質の寄与を特徴づけるような分類方法を検討中。農薬・医薬・化粧品・香料・食品・材料など幅広く適用できる製品に仕上げていく。
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