2015年冬CCS特集:第2部総論(ユーザー事例紹介)

日本新薬 創薬研究所 探索研究部・尾田明博専任課長インタビュー

 2015.12.03−日本新薬は、国内の製薬業界でいち早く電子実験ノート(ELN)を完全電子化のスタイルで導入した企業の1社。最初の導入から約5年を経て、この11月末にシステムをバージョンアップし、業務の適用領域を広げた。実際にプロジェクトを担当した創薬研究所探索研究部の尾田明博専任課長にELN導入の経緯や、プロジェクト遂行上のポイントなどについて話を聞いた。

                 ◇       ◇       ◇

 同社の探索研究は、泌尿器科や血液内科、難病・希少疾患を中心に、婦人科、耳鼻咽喉科を含めた5領域を重点ターゲットとし、特徴のある自社創製品の開発をスピード重視で行うという基本方針を掲げている。社内外のリソースを有効活用し、開発パイプラインを充実させることをミッションとしている。

 その同社がELN導入の検討を開始したのは2008年ごろ。原動力となったのはコンプライアンス面からの要請で、化学物質の適正管理を徹底するため、法令知識の不足とコンプライアンス意識の欠如がリスク発生につながる恐れをゼロにしたいという考え方だった。システムは「Symyx Notebook」(現在のBIOVIA Workbook)に選定され、2011年から本社創薬研究所(京都市)と東部創薬研究所(つくば市)の化学合成部門で運用が始まった。

 尾田課長は、プロジェクトを成功させるポイントとして、(1)最初から完全電子化を前提にする、(2)現場の研究者にELNの必要性を実感させる、(3)反対派の人をプロジェクトメンバーに加える−の3点を挙げる。「ただ、当社の合成部門は若い人が多く、電子化に対する反発が比較的少なかったこと。また、異動が頻繁なので実験記録が継承しやすいELNのメリットがすぐに出たことなど、恵まれていた点もあったと思う」という。

 具体的な導入効果としては、ELNが法規制チェックシステムと連動するためコンプライアンスはまったく問題なし。反応式からの仕込み量計算など、手作業がなくなったことでノート作成の業務効率も確実に向上した。ほぼ年間2万件の実験データが蓄積されるため、今後は情報共有/ノウハウ共有の効果もあらわれると期待されている。

 「ELNは自分の書いたものが他の人の目に触れる機会が多くなるため、実験の様子を詳しく丁寧に書く人がいると、それがひな型になって広がり、全体としてノートの記述内容の質が高まったと感じている。こういう場合に発熱したとか細かく書かれているので、とても参考になるという声がある」といった効果もみられたという。

 こうした実績を踏まえ、今回のバージョンアップ(Symyx Notebookバージョン6.6からBIOVIA Workbookバージョン6.9へ)では、CMC技術研究部の原薬部門(プロセス化学)へELNの適用を広げた。「ラボスケールから大量合成へとノウハウ継承も期待できるし、本社地区に建設中の原薬工場が来年4月に稼働するのでタイミングも良かった」と尾田課長。「ELNは毎日使うものなので、スループットが重要。今回のハード・ソフトの更新では処理速度向上が一番の期待で、少しでも速くなればと、フラッシュSSDでデータベースを運用するように変えた。利用者からはレスポンスが良くなったとの感想をもらっている」と話す。今後については、生物部門でのELNの利用、化合物登録・管理システムとELNとの連携などが課題として残されているという。

 最後に、尾田課長はまとめとして、「新薬の創出を生命線とする製薬会社にとって、ELNは研究のための重要なインフラ。そのため、創薬の基本戦略に基づき、研究専門のIT担当が多様なシステムをまとめて全体最適を図るような体制整備が重要だろう」と強調してくれた。


ニュースファイルのトップに戻る