2016年夏CCS特集:シュレーディンガー
材料モデリングを強化、生命系は新薬の創出で実績
2016.06.23−シュレーディンガーのモデリング&シミュレーション(M&S)技術が、生命科学から材料科学へと広がりをみせている。日本法人でも、材料分野の技術スタッフを増員し、本格的な攻勢をかける。
同社は全体で30種類以上の製品群を揃えており、低分子ドラッグディスカバリー、バイオロジクス、マテリアルサイエンス、ディスカバリーインフォマティクス−の4分野のスイート製品に体系化している。
とくに、材料分野での強みは高速な分子動力学エンジン「Desmond」。もともと生命分野で実績豊富だが、材料向けの機能がどんどん充実している。最大のメリットはその高速性。GPU(グラフィックプロセッサー)を利用することで100倍速くなるといわれており、通常のCPUでしか動かない他社製のエンジンと比べると、次元の違う速さをみせるという。
例えば、高分子のガラス転移点(Tg)シミュレーションは計算コストのかかる問題の典型で、CPUでは数カ月かかる場合も多く、逆に実験した方が速いため実用性には乏しかった。ところが、GPUを使用するDesmondなら数日で計算が終了する。しかも、GUIの「Maestro」を使って任意の反応を扱うことが可能。複雑なスクリプトを記述するなどの面倒な手間がない。
また、量子化学計算エンジンの「Jaguar」を使って材料の光劣化のシミュレーションも可能になった。分子の基底状態と励起状態を解析して、結合開裂エネルギーを求めることができる。電荷移動度の計算もグレードアップしており、有機EL材料開発などへの適用が期待されているという。
一方、生命科学領域では、同社のM&S技術の有効性はもはや実証済みで、創薬研究の際だった成功例も出てきている。その1つが米創薬ベンチャーのニンバス(Nimbus)。シュレーディンガーが共同創設者となり、M&S技術を全面的に提供してきた。いくつかの研究プロジェクトが走っているが、そのうちの代謝疾患などを標的としたACC阻害薬プロジェクトを、今年の4月に米ギリアドサイエンスが(Gilead)が4億ドル(今後のマイルストーン次第でさらに最大8億ドルを支払う)で買い取った。このニュースのあと、国内でも問い合わせが急増したという。
また、生命科学分野では、Desmomdを使ってタンパク質とリガンド間の結合自由エネルギーを精密に予測する「FEP+」への関心が高い。ニーズに応え、アカデミック向けにも提供を開始した。これもGPUが必須になるため、評価用にGPUマシンの貸し出しにも応じている。