CCS特集2016冬:シュレーディンガー

GPU超高速計算を先導、新薬創出狙う新事業も注目

 2016.12.06−シュレーディンガーは、強みとする生命科学系モデリング&シミュレーション(M&S)に加え、材料科学系M&Sでも急速に実績を伸ばしつつある。好調さを受けて日本法人の陣容も強化し、営業を増やして現在は9人体制だが、さらに技術を3人増員する予定である。

 同社は、トータルで30種類以上のアプリケーションを揃えており、それらを低分子ドラッグディスカバリー、バイオロジクス、マテリアルサイエンス、ディスカバリーインフォマティクス−の4分野のスイートに体系化している。年に4回のペースで最新版をリリースしており、11月末にもさらに機能を充実させた。

 とくに、共通GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)が「Maestro 11」に全面リニューアルされ、多彩な機能を効率良く使用できるように操作方法が見直された。計算化学の専門家だけでなく、現場のメディシナルケミストにも使いやすいように工夫されており、3次元QSARを行う「Phase」や化合物ライブラリーを扱う「CombiGlide」の一部機能が埋め込まれたという。

 生命科学分野では、GPU(グラフィックプロセッサー)を利用して高速で動作する分子動力学ソフト「Desmond」と、これを用いてタンパクとリガンド間の結合自由エネルギーを予測する「FEP+」の本格導入が進んできている。とりわけ、FEP+は大学への販売が解禁されたことで人気沸騰中だ。

 同社では、FEP+のさらなる普及を図るため新たなライセンス制度も導入した。GPU環境を用意するための初期投資が敷居になることを考慮したもので、通常ライセンスのモデル1に加え、100化合物を解析し終わるまで利用できるなどのモデル2(従量課金型)、同社のデータセンターのGPUを自由に使用できるモデル3(クラウドサービス型)を選択することができる。

 一方、材料科学分野でもDesmondは人気で、自動車や電気、および関連産業での導入例が増えている。新機能として、Desmondでの粗視化シミュレーション機能が追加されており、新しいMaestroでフルアトムモデルからビーズモデルへの変換、ビーズモデルでの分子構築が簡単に行える。一連の処理を自動化するマルチステージワークフロー機能も強化され、SSカーブ(応力ひずみ線図)を描いてひずみ速度を計算するなどの処理も可能になった。

 また、QSPR(材料物性相関)機能で、遺伝的アルゴリズム(GA)を使って光学材料系の物性を予測できるようになったほか、量子化学計算でもマルチステージワークフロー機能が実装され、構造最適化を行ったのちに遷移状態を探索するなど、よく行う一連の手順を自動化できるようになった。さらに、平面波基底DFTソフトであるQuantum ESPRESSO対応機能が正式にリリースされ、ESM(Effective Screening Medium)機能を利用して電極と電位を操作するなど、電池材料開発でのアプリケーションが広がったという。

 そのほか、同社では創薬ベンチャーの共同創設者となって、同社のM&S技術を全面的に提供して新薬創出を狙う新しいビジネスモデルを展開しはじめている。第1弾のニンバス社(Nimbus)はすでに成果を出し、代謝疾患などを標的にしたACC阻害薬プロジェクトを米ギリアドサイエンスに4億ドルで売却した。これに続き、モルフィック社とリレイ社にも出資している。ここで生まれた成果はM&Sのサクセスストーリーとなるため、ユーザーからの注目度も高いということだ。


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