CCS特集2017年冬:シュレーディンガー
新薬候補化合物導出で成果、深層学習にも取り組み
2017.12.05−シュレーディンガーは、モデリング&シミュレーション(M&S)を中心に新薬や新材料の創出を支援するソフトウエアをスイートとして提供。とくに生命科学系では、創薬ベンチャーに投資して自社M&S技術の有効性を実証する取り組みが注目されており、すでに有力な候補化合物を製薬企業に導出するなどの成果を着々とあげている。
同社は、ストラクチャーベース(SBDD)、リガンドベース(LBDD)、インフォマティクスなど、創薬研究のため40本ほどのソフトをラインアップしているが、とくにサクセスストーリーの原動力となっているのが、自由エネルギー計算を利用した活性予測を行う「FEP+」。1 Kcal/molの精度で計算でき、実験と同列に扱うことができるため、創薬研究を大幅に加速する技術である。実際に合成するよりも50倍の速度で化合物を評価できる。通常の低分子薬だけでなく、環状ペプチドなどのマイクロサイクルも対象になってきている。
ただ、計算には高価なGPUが必須であり、またGPUの世代交代が速いため、ユーザーが利用環境を整える点でやや敷居が高かった。そこで同社では、クラウド事業者でGPUを利用する場合のサポートを行うほか、自社のGPU計算資源をクラウドで提供するなど、特別なライセンス戦略をとっている。計算時間にかかわらず、1化合物単位の定額料金(最小100化合物からの契約になる)でFEP+を使用できる。最近は、自社クラウドからのサービスが伸びているということだ。
また最近、De Novo(デノボ)デザインの需要が高まっている。Pathfinderと呼ぶ独自技術を利用して、実際の反応式から抽出した化学的な妥当性を考慮して効率良く構造を発生させる技術開発を進めてきている。AI創薬/IT創薬の分野で、いかに多くの構造をつくり出し、それを機械学習させるかが関心の的になっているため、同社の技術への期待は高い。
一方、スタンフォード大学との共同プロジェクト「DeepChem」を今年春からスタートさせ、深層学習(ディープラーニング)への取り組みも進めている。深層学習は畳み込みと呼ばれる処理が特徴になるが、化合物を学習させることが難題。同プロジェクトでは、化合物をグラフ表現のモデルにすることで畳み込み学習させることに成功している。現在、Githubを介してツールを無償公開しているが、来年にはモデル作成ツール「AutoQSAR」でこの深層学習技術が利用できるように実装したいとしている。
そのほか、共同研究のためのコミュニケーション環境を提供するコラボレーションツール「LiveDesign」は、欧米での展開が先行しているが、日本市場にも来年から本格的に紹介していく計画。また、付加価値を付けたタンパク質・リガンド立体構造データベース「PLDB」もあらためて販売に力を入れる。
材料科学系スイートとの方も引き続き機能強化を図ってきており、最新版ではポリマーのアモルファスビルダーで、温度を考量したモデル作成ができる新機能が追加されたという。