CCS特集2017年冬:TSテクノロジー

深層学習で5年計画を開始、共同研究で論文掲載も

 2017.12.05−山口大学発ベンチャーのTSテクノロジーは、医薬・化学・材料メーカーの研究開発を支援する計算化学専門ベンダー。大学と結びついたノウハウを生かし、受託計算や受託研究、パッケージソフト販売、ハードウエア販売など、幅広いビジネスを展開している。

 同社は現在、山口大学の研究拠点形成プロジェクトを推進中。名称は「深層学習の予測に基づいた新規機能性化合物創成法の開発と検証」(研究代表・山鈴子創成科学研究科教授)で、期間は5年間。計算・合成・機能評価のサイクルを回す異分野の研究者がチームを組み、得られたデータをフィードバックして深層学習を深めていくことが狙いだ。

 ただ、同社ではAI技術を「人間の創造的活動を支援するツール」と位置づけており、人手による作業をAIに置き換えて効率を上げたり、結果の精度を高めたりする目的で利用したいという。将来的には社内の業務にも採用し、受託解析に取り入れる可能性も探っていく考えだ。

 またビジネス面では、年間単位の専従体制で研究協力する「包括連携契約」(FTE契約)が順調に推移している。機能材料の蒸着メカニズムの解明、有機金属錯体を酸化還元電位の予測値でスクリーニングするなど、計算化学的に高度な内容も多い。契約期間を延長する顧客もあり、新規では材料科学系の仕事が増えているということだ。

 一方、今年8月、日本曹達との共同研究が英国化学会の「Molecular Systems Design & Engineering」誌に掲載された。これは、ポリオレフィンを対象に開発した新しいポリマー系接着剤について、実験で接着力は確認されているが、そのメカニズムを計算化学で調べたいというのがきっかけ。シミュレーションによる解析の結果、CH/π相互作用による接着機能だと判明した。この分野は水素結合や物理吸着による接着が主流で、あまり考慮されないメカニズムだったという。研究の中では、ポリマー鎖のダイナミクス計算を行い、ランダムコイル型よりもリジッドなロッドライク構造の方が接着力が高くなることも確かめている。


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