CCS特集2017年冬:ウェイブファンクション

天然物構造決定で共同研究、次期バージョンに採用

 2017.12.05−ウェイブファンクションは、初心者から上級者までの多様な要求に応える統合分子モデリングシステム「Spartan」を開発。量子化学的手法が手軽に使えるとあって、幅広い用途で人気があり、教育用としても多くの大学や高等専門学校で採用されている。

 今年9月、同社は札幌で開催された天然有機化合物討論会で、弘前大学および北海道大学との共同による研究発表を実施した。これは、NMRを用いた天然物の構造決定を自動化する手法で、来年リリース予定の次期バージョン「Spartan '18」に採用される予定である。

 天然物は、構成する元素としては計算しやすい系だといえるが、一方で分子量が大きく、配座の自由度が高いため、NMRからの構造決定が難しい場合が多い。今回の研究グループは、可能性のある配座を網羅する初期段階の計算に高速な分子力学法を用い、段階的に精度の高い量子化学的手法によるエネルギー計算と構造最適化計算を実施して絞り込み、最終的に量子化学でNMRの化学シフトを求める手法を確立した。実際にはかなり複雑な計算だが、Spartanに一連のプロトコルを組み込むことで自動化が実現されている。

 この手法の検証として、X線結晶データが既知の700化合物でテストするとともに、データがない1,000例にも適用し、同手法の有効性を確かめた。その結果、データがある場合は計算との誤差はわずか、データがない場合は文献に報告された値との差異があるものもあったが、最終的にはそれらについても計算の方が正しい結果を示唆していると考えられる例が多かったという。Spartanで利用することにより、量子化学の知識のない研究者でも簡単に扱えるため、天然物構造決定の精度向上につながると期待される。この共同研究の計算結果は、同社の特設サイト(nmr.wavefun.com)で閲覧できるほか、当日の発表と同内容の講義をユーチューブで試聴することもできる。

 一方、Spartanは、昨年度の国の委託事業に関連して、和歌山県工業技術センターで「ケミカルスマートものづくり 計算化学スクール」に採用され、今年度から同センターの貸付機器として県内の事業者などに開放されている。これも安定した利用があるようで、質問への対応など継続的なサポートを実施している。同センターの取り組みに対しては県外からの視察なども来ているということだ。


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