2018年夏CCS特集:物質・材料研究機構

機械学習で実際に材料作製、MI研究者の育成にも力

 2018.06.20−物質・材料研究機構(NIMS)は、科学技術振興機構(JST)イノベーションハブ構築支援事業の一環で、国内初の本格的なマテリアルズインフォマティクス(MI)の研究開発事業として、「情報統合型物質・材料開発イニシアティブ」(MI2I=エム・アイ・スクエア・アイ)に取り組んでいる。プロジェクトは2019年度のゴールを目指して、現実のものづくりとしての成果を創出する段階に進んできており、それと同時にMIを使いこなす研究者の育成にも力を入れている。

 MI2Iでは、機械学習を使った材料探索を行っており、ここへ来てその成果が報告されつつある。例えば、ビスマスとシリコンからなる無機材料で、どのような組成で熱伝導率が低くなるかを機械学習で予測した例がある。その組成で実際に材料を作製し、熱伝導率がきわめて低いことを確かめた。また逆に、熱伝導率の高いポリマーを探索。機械学習で分子構造を推定したところ数千種類の候補が得られたため、放熱コーティングを用途に仮定し液晶性の分子に絞って再度機械学習で予測。最終的に得られた候補の中から、専門家の目で合成可能性の高いポリマーを3種選定し、実際に合成することに成功した。そのうちの1つはまったくの新規物質だったが、うまく合成できたという。今後は、合成可能性を判定する専門家のノウハウを学習させる方法も検討していく。

 機械学習は、ある物事の間の“相関関係”を見つけ出して予測につなげるものであり、両者の間にある“因果関係”を理解する、つまり「科学的にわかる」ことは難しい。科学研究に人工知能(AI)的な方法を持ち込むことの本質的な問題点がここにあるが、予測結果を実際のものづくりにまでつなげることにより、科学的な理解も進むと期待されるという。

 一方、MI2Iの中では民間企業によるコンソーシアム活動が進展しており、具体的なMI研究に取り組むために人材育成のニーズが増加してきている。そこで、今年度からは受講者のレベルに応じた実習をスタート。主な対象は企業の研究者で、実際のツールを使ってとにかく機械学習にチャレンジする超入門コース、機械学習のアルゴリズムを理解することを重点に置いた初級コース、実戦的なスキルアップを目指す中級コースを用意した。一般の講習会とは異なり、材料研究に焦点を当てていることでたかい評価を受けている。

 コースによっては、東京だけでなく、東北大学、大阪大学、名古屋工業大学の協力を得て、サテライト会場での受講もできるようになっており、MI技術者を全国に広げていく考え。人材育成事業はプロジェクト終了後も何らかのかたちで継続していきたいとしている。

 また、MI研究に有益なデータベースとして、無機材料データベース「AtomWork Adv」(アトムワークアドバンス)の有償サービスを5月末から開始した。NIMSが運営している物質・材料データベース「MatNavi」での無償公開版に比べて大幅にデータ量が増強されている。結晶構造データが約27万件、特性データが約30万件、状態図データが約4万件収録されている。年間ライセンスで使用する形態で、クレジットカード決済にも対応している。


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