富士通研究所がデジタルアニーラ向け大規模問題分割技術
中分子創薬への適用にメド、100キロビット級問題に対応
2018.09.19−富士通研究所は18日、富士通および富士通アドバンストテクノロジと共同で、中分子創薬に適用可能な組み合わせ最適化問題を解く技術を開発したと発表した。量子効果に着想を得たデジタル回路を利用する「デジタルアニーラ」を幅広い用途に活用できるようにする計算手法で、ハードウエア的に本来8キロビット(8,192ビット)規模の問題しか扱えないものを、100キロビット規模の問題に適用することが可能になる。今回、30キロビット規模に相当する中分子の安定構造探索に、今回の手法が適用できることを確認した。従来のコンピューターで半年かかっていたシミュレーションを数日間で終わらせるほどの時間短縮が可能だという。
組み合わせ最適化問題は、物事に影響する要因を追加していくことにより、その組み合わせ数が爆発的に増加してしまうため、従来型の計算機では現実的な時間で解ける規模に制限がある。富士通の「デジタルアニーラ」は組み合わせ最適化問題専用のアーキテクチャーを実装したシステムで、すでに1キロビット規模の問題を扱える第1世代システムが稼働している。さらに、8キロビット対応の第2世代システムを今年度中に完成させるべく開発中だが、このハードウエアで100キロビット級の問題が扱えるようになれば、その実用性は格段に高まる。
例えば、1キロビット級では、創薬のための安定構造探索は低分子まで、工場の部品ピッキング問題では1フロアまで、交通量最適化問題は東京湾近郊エリアまでしか解けないが、100キロビット級に近づけば創薬は中分子まで、工場は数フロアまで、交通量最適化は東京都内までの問題が扱える。加えて、1メガビット級が実現すれば、創薬は高分子、工場全体、交通の問題は東京圏全体が解けるようになるという。
今回開発したのは、ハードウエアの制限よりも大きな問題を扱うための問題分割技術。単純に分割しても効果がないことから、まず最適解を求めるための解探索フローを実行する。問題全体を短時間でサーチしたあと、問題の一部を抽出し、解の探索を行ったあと、その結果を全体に戻すというフローを、抽出箇所を変えながら複数回繰り返す。さらに、問題の性質に応じて最適な抽出部分を探るため、問題全体の中で変化しやすい要素を中心に抽出する方法や、要素間の結合が小さい箇所を分割する方法など、複数の分割方式を開発し、問題に適した分割方式が選択できるようにした。
具体的に、タンパク質由来の創薬シミュレーターを開発している加プロテインキュアと共同研究を実施。中分子創薬では、数個〜50個ほどのアミノ酸が鎖状につながった中分子化合物が、標的となるタンパク質に強固に結合することで医薬としての効果を発揮する。そこで、各アミノ酸をモデル化し格子点上に配置した場合に、どの構造が最も安定的かをアミノ酸同士の結合関係などからデジタルアニーラで探索。そして、アミノ酸構造と標的タンパク質との結合の強さをドッキング計算で調べていく。このフローを1,000回ほど繰り返すことで、薬効の高い中分子医薬候補化合物を探索する。
共同研究では、第2世代デジタルアニーラを利用し、アミノ酸48個規模の中分子医薬候補を探索。これにより、従来のコンピューターで数時間かかっていた計算時間が数分に短縮できることを確かめた。このことから、探索フロー全体として、半年かかっていた処理が数日で終わるようになると期待できるとしている。両社では、今回の成果をもとに、さらに共同研究を進めていくことにしている。
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<関連リンク>:
富士通(デジタルアニーラ紹介サイト)
http://www.fujitsu.com/jp/digitalannealer/
加プロテインキュア(トップページ)
https://www.proteinqure.com/