米CASの「SciFinder-n」が国内でも本格展開

関連性スコアで的を射た検索結果表示、逆合成予測の新機能も搭載へ

 2018.07.24−米ケミカルアブストラクツサービス(CAS)が提供している研究者向け科学情報検索ツール「SciFinder」のプレミアム版として開発された「SciFinder-n」(サイファンダー・エヌ)の採用が広がってきている。海外ではすでに数百社が新サービスに移行、国内でも総代理店の化学情報協会(JAICI)が東京・大阪でリリースセミナーを開催するなど、本格的な紹介活動を開始している。具体的に、大日本住友製薬が全社レベルの利用での5年契約を結ぶなど、着々と成果があがりつつある。

 SciFinder-nは、SciFinderの一部オプションを含んだサービスで、情報へのアクセスの面で共通している部分は多いが、プログラム自体はまったくの新規開発であり、そのコードにSciFinderとの重複部分はない。コンテンツのうち、検索結果として表示される化学構造式なども新規に書き直されており、わかりやすさや使いやすさが重視されているという。

 とくに、最大の特徴は検索のしやすさと、知りたい検索結果が優先的に表示されること。メイン画面はGoogleライクで検索ボックスが一つだけ。検索モードは「物質」「反応」「文献」「試薬サプライヤー」に分かれているが、すべてをまとめて「オール検索」するのがSciFinder-nの使い方である。構造検索も、モードは「部分構造」「類似構造」「完全一致」に分かれているが、これも気にせず「オール検索」することができる。

 最もユニークなのは、検索結果がCAS独自の関連度(Relevance)に基づいてスコアリングされること。検索式は自然語で入力できるが、研究者が何を知りたいと思っているかをシステム側が判断し、適合性の高い回答を上位に表示することが可能。検索した単語の出現頻度と逆文書頻度、表現抽出、シンタクティック検索とセマンティック検索、シソーラス階層と関連語のつながり、バイグラム(文字列の連続)とめずらしい表現などの組み合わせによって、必要とされる回答に焦点を当てるという。関連性のスコアは内部で動的にはじき出され、検索式によっては、シンタクティック(情報の構文論)な関連性が優先されたり、セマンティック(情報の意味論)な関連性が優先されたりする場合がある。

 「オール検索」の結果も、各検索モードごとのヒット数が画面内に表示されるほか、回答集合に対するフィルター項目を選ぶだけで簡単に情報を絞り込むことが可能。また、マルチタブ機能で項目を複数表示できるため、結果を並べて比較・確認することも容易に行える。

 さらに、SciFinderでオプション提供されている「PatentPak」(特許明細書をスマートに参照)、「MethodsNow Synthesis」(詳細な合成手順情報を表示)を標準機能として提供している。SciFinder-nの利用料金は、通常のSciFinderよりも高めになるため、情報検索の効率性や使いやすさにそれだけの価値を感じるか、ユーザーの使い方によっても判断が分かれるだろう。

 その意味で、SciFinder-nへの切り替えを促進させると期待されるのが、今年後半に実装予定の新機能「ChemPlanner」だ。これは、反応経路予測のための人工知能(AI)を利用したエキスパートシステム(ES)で、知識ベースに27万以上の反応ルールを搭載しているという。ハーバード大学のイライアス・コーリー教授(1990年のノーベル化学賞受賞者)が開発した逆合成の考え方を引き継ぐ直系システムの一つで、現在は学術出版社のジョン・ワイリー・アンド・サンズが製品化している。今回、SciFinder-nに搭載されるChemPlannerは、SciFinderの反応情報を学習させた強化版の位置づけになる。

 とくに、逆合成のステップ数を1段階から4段階まで選べるほか、化学構造の中で切断したい結合や保護したい結合を指定することが可能。逆合成ルールの適用も、多くの文献に事例がみつかるコモンルールのほか、コモンルールを含むアンコモンルール、コモンとアンコモンを含むレアルールといった具合に、段階的に可能性の範囲を広げることもできる。

 反応検索をする際にChemPlannerのボタンをオンにすると、通常の反応検索によるルートと、逆合成による予測反応ルートの両方を同時に表示させることが可能。また、通常の反応検索でヒットがなかった場合、予測検索で前駆体を探し、そこを起点に反応検索を行うことにより、目的の生成物に至る反応ルートを複数得ることができる。逆合成は、その予測のもとになった根拠を示す機能があることに加え、別のパス(代替ルート)も提案してくれる。

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<関連リンク>:

化学情報協会(SciFinder-nの紹介ページ)
http://www.jaici.or.jp/scifinder-n/


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