2018年冬CCS特集:第2部総論(AI創薬)インタビュー
LINC代表=京都大学・奥野恭史教授
2018.12.04−AI創薬を具体化する取り組みとして、ライフインテリジェンスコンソーシアム(LINC)への期待が高まっている。トータルで10年以上にわたるといわれる医薬品開発のライフサイクル全体でAIの活用を目指すその幅広さとともに、参加企業・団体が100以上に及ぶという規模の点でも注目度が高い。国内のライフサイエンス企業や機関のほぼすべて(外資系企業も参加)がLINCに関係していると思われるほどだ。代表を務める京都大学大学院医学研究科の奥野恭史教授(ビッグデータ医科学分野)に現状や今後の展望を聞いた。
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◆◆日本発の創薬技術で社会変革、来年夏プロトタイプ出揃う◆◆
− 活動の進捗は。
「本格的にスタートして1年と少したつが、きわめて順調だと感じている。各ワーキンググループのもとで約30のプロジェクトが同時に走っており、ほとんどが既存のAI技術での評価段階に進み、さらに高性能な独自AIの開発や具体的なプロトタイプ作成に成功したグループも出てきている。ちょっとおもしろい用途としては、学術文献の内容や共著関係を複雑ネットワークの理論で解析し、特定のテーマでコラボすべきアカデミアの研究者を自動的に探索できるAIがある。これはすでにプロトタイプが完成している。LINC全体でみて、最初の1年でここまでこれたかという思いだ」
− ご自身の専門であるインシリコ創薬の領域はいかがですか。
「活性や物性の改善、薬物動態や毒性(ADMET)の予測などで多様なモデル開発を行い、要素技術を揃えている段階だ。独自AIの評価に入っているグループも多い。同時に、AIによる予測がブラックボックスにならないように、予測に用いた要因を可視化する技術開発も行っている。囲碁AIのアルゴリズムを利用した逆合成解析・合成経路予測、望ましい物性のいくつかを同時に満たす分子構造を発生させるなど、AIならではの取り組みもある。これらも含め、LINC全体で来年夏にはかなりのプロトタイプが完成する予定だ」
− かなり順調そうですが課題もありますか。
「機械学習のためのデータをどう獲得するかだが、探索フェーズは化合物情報もかなりあり、AI構築に問題はない。ただ、新薬の開発フェーズに入ると化合物の候補も絞り込まれてくるのでデータ量は減ってくる。それを補うため、不足しているデータを教えてくれるAIも開発している。いわば、賢いAIになるようにAIがナビゲートしてくれる。足りないデータはシミュレーションでつくり出すという考え方だ」
− 新薬の研究開発費が増大し、もっと効率良く創薬しなければ日本の製薬業は生き残れないという指摘もあります。
「そのためのAI創薬だと思っている。とくに、実験にはお金がかかる。可能な限り計算で絞り込み、ピンポイントで必要な実験だけをするべきだ。創薬研究プロセス全体に真の意味で計算を実装することがLINCの目的だといえる。日本発の新しい創薬技術が、日本の、ひいては世界の構造変革・社会変革を引き起こすのを見届けたいと願っている」