2018年冬CCS特集:シュレーディンガー
高速計算で実験を置き換え、MI研究に機械学習統合
2018.12.04−シュレーディンガーは、最先端の計算化学技術により、新薬と新素材の開発研究に革新的な変化をもたらすことを目指している。とくに、新しい解析手法を積極的に導入しているほか、受託計算や受託研究などのサービスビジネスでも高い評価を得ている。
幅広い製品群のうち、生命科学分野でフラッグシップとなるのが、高精度自由エネルギー計算を行う「FEP+」。GPUをフル活用して、実験と同等の精度の計算結果を、実験よりも速く低コストで導き出す機能がある。今年夏から新しい力場であるOPLS3Eが用意されてさらに精度が向上し、インシリコでのアッセイが本格的に行えるようになってきている。母核構造を変換するコアホッピングにも対応したことで、効率良く実験するための重要な示唆が得られるという。
GPUの利用が必須となるため、柔軟なライセンス体系を準備しており、社内のGPUマシンで計算するほか、外部のクラウドサービスを利用することも可能。シュレーディンガーのデータセンターを利用することや、計算・解析そのものを依頼することもできる。使い方の選択肢が増えているため、FEP+への関心はさらに高まってきている。
また、来年には次世代のインデュースドフィット(誘導適合)ソリューションを開発する計画。分子動力学エンジンのDesmondを利用したバインディングポーズ・メタダイナミクス、水和状態を解析するWaterMapを利用したダブルスコアなどの新手法を組み込む。同時に、ホモロジーモデリング技術も改良し、ドッキングシミュレーションの精度向上を図っていく。
さらに、機械学習への取り組みでは、文献や特許から化合物構造を自動的に抽出するACE(オートメーテッド・コンパウンド・エクストラクション)を利用して、学習用データの蓄積を推進。深層学習のDeepChemを使った薬物動態や毒性予測へとつなげていく考えだ。そのほか、ネットワーク環境での研究コラボレーションの基盤となる「LiveDesign」の評価が国内でも進んできている。GPUを使ってリガンド形状でのスクリーニングを加速する「Shape Screening」の機能強化も注目されている。
一方、材料科学分野では、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)や機械学習への取り組みを強める方針。LiveDesignを機械学習のプラットホームとし、DeepChemを利用した各種のAI開発をLiveDesign上で行えるようにしていく。プリセットされた物性予測モデルも順次提供する予定。
同社は機械学習の専門チームを10人以上揃えて内部でも研究を進めており、通常のQSAR/QSPRよりもDeepChemによるモデルの方が高精度であり、データ数が多いほど改善することを確かめている。最近では、密度汎関数法(DFT)計算結果を学習させ、計算結果を予測するAI開発も推進。実際にDFT計算を行うよりも、1万倍速く結果が得られるという。また、望みの物性を持つ分子構造を予測する逆問題解析によって、学習セットにない新しい分子構造を発見する試みも進めている。これには、分子構造(SMILES)をエンコーダーで連続空間に変換し、学習結果をデコーダーでSMILESに戻すという技術が使われているが、このエンコーダー/デコーダーも深層学習で構築されたものとなっている。