慶應大らのグループがMI利用しナノシートを高効率合成

スパースモデリング活用、合成プロセスの制御に道

 2019.01.23−慶應義塾大学理工学部の緒明佑哉准教授らの研究グループが10日、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)を活用してナノシート材料を高効率で合成する手法を確立したと発表した。ナノシート作成プロセスにおいて、収率を決定づけている要因をスパースモデリングによって抽出し、その予測モデルに基づいて実験した結果、実際に高い収率を得ることができたというもの。ナノシート材料の応用研究を加速する成果として期待される。

 今回の研究は、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業さきがけのもとで、研究領域「理論・実験・計算科学とデータ科学が連携・融合した先進的マテリアルズインフォマティクスのための基盤技術の構築」における研究課題「はく離挙動を制御する指針の確立によるナノシート材料の機能設計」として実施された。詳細は、国際科学誌「Advanced Theory and Simulations」のオンライン速報版で公開されている。論文のタイトルは「Materials-Infomatics-Assisted High-Yield Synthesis of 2D Nanomaterials through Exfoliation」。

 近年、グラフェンなどのナノシート(2次元ナノ材料)が注目されているが、その製造プロセスは層状物質の構造をはがす(壊す)ことによって行われるため、量産化に向けた収率の向上、特性に関係するはがすサイズや表面の状態の制御を行うことが難しく、課題とされていた。

 緒明准教授らの研究グループは、無機層状化合物の層間に有機分子を導入した層状有機無機複合体を合成し。これを層間の有機分子と親和性の高い溶剤に分散させることで、剥離を促し無機ナノシートを得る手法を開発してきている。

 今回、層状構造を持つ酸化チタンをモデル物質として、層間有機分子と有機溶剤の約100通りの組み合わせでナノシートを合成し収率を測定。その測定データと、剥離挙動を支配すると考えられる因子(記述子)を含めた学習データセットを作成し、スパースモデリングにより、収率と強く相関のある少数の記述子を抽出した。この学習結果を利用し、層間有機分子と有機溶剤の未知な組み合わせ81通りから、収率の高い11通りの組み合わせを予測。その11条件を実際に合成した結果、4条件で10%を超える高収率を達成できた。通常は、反応時間5〜10日で10%前後の収率だが、今回発見した組み合わせは5日で50%前後にまで収率が向上したという。

 これは、ナノシートを高収率で合成する組み合わせを最小の実験数で得る手法であり、これまでブラックボックスだったナノシート合成プロセスが制御可能になることがわかったという点で大きな成果になった。また、MIの有効性を示す研究事例としても注目される。

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<関連リンク>:

慶應義塾大学(材料科学研究室のホームページ)
http://www.applc.keio.ac.jp/~hiroaki/top.html


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