CCS特集2019年夏:富士通

AI活用など新技術加速、アニーリングマシン適用も

 2019.06.21−富士通は、CCS分野に対する新技術・新ソリューションの投入を加速させる。現在は、製薬企業の創薬研究領域に向けて電子実験ノート、化合物登録、法規制チェック、試薬管理、スペクトル解析などのパッケージをシステムインテグレーション(SI)を組み合わせて多様なニーズに応えているが、ここ数年は化学・材料系企業のマテリアルズ・インフォマティクス(MI)への関心の高まりを背景に、電子ノートを中心にしたソリューション展開を急速に進めてきている。今後、人工知能(AI)などの新技術を核に新たな市場開拓を目指す。

 電子ノートの普及によって、企業内のデータ蓄積が進んできているため、今後は蓄えたデータの利活用にユーザーの関心が移っていくと考えられる。そこで、大量データを可視化しトレンド解析などを行う「Spotfire」(米パーキンエルマー)を戦略商品に位置づけるとともに、独自の機械学習技術である“ディープテンソル”を利用したADMET(薬物動態と毒性)物性予測サービスを企画・検討中。これは、ライフインテリジェンスコンソーシアム(LINC)の研究成果をもとにしており、今年度中に実証試験を行い、2020年度から商用サービス開始を予定している。

 また、AI応用の自然言語処理(NLP)を、研究所や知財部門に対するソリューションとして活用する計画。すでに製品化されている特許検索「パテントサーチ」、文書検索「ナレッジサーチ」は、自然文を用いて非専門家でも的確な情報検索ができるように助けるシステムで、検索文にキーワードが直接含まれていなくても、意味的に関連性の高い文書を見つけ出してくれる。富士通のAIであるZinraiが持つ専門分野別意味検索などの機能が利用されている。

 同社ではさらに、新文献情報検索ソリューションを開発中。富士通研究所の知識構造化と自然言語処理の技術を活用し、データ駆動型材料開発に貢献しようというもので、分野を超えた知識の構造化(化学ナレッジグラフ化)による情報探索の効率化、NLPによる文献収集・意味抽出の高速化・自動化を図る。とくに、人手では読み解けないほど膨大なドキュメントの読解支援を行う「ChemMom」を開発中。まずは特許明細書を対象に、そこに含まれる化合物の名称などを自動的に抽出する技術を開発しており、掲載されている構造式から類似化合物情報を引き出したり、化合物の構造比較を行ったりするなど、実際に大手化学メーカーの知財部門から要望を集めて実用化を図っているという。

 一方、中長期的には、量子現象に着想を得た「デジタルアニーラ」の応用も注目される。組み合わせ最適化問題を実用レベルで解ける唯一の量子アニーリングマシンであり、具体的な適用事例として東レとの共同研究が発表されている。タンパク質の立体構造を決定するための結晶化が困難なケースが多いため、デジタルアニーラによってタンパク質側鎖の配座の最適な組み合わせを予測することで、全体の最安定構造を効率良く決定できるかを検証したもの。検証用の小さなタンパク質では正解が得られ、これまでは大型コンピューターで3〜4時間計算して打ち切っていた大きなタンパク質に関しても20秒程度で解けることを実証したという。今後はポリマーなどの材料設計への適用を進めていくとしている。


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