CCS特集2019年夏:モルシス
創薬のモダニティに即応、MI用データを計算で生成
2019.06.21−モルシスは、菱化システム(現在の三菱ケミカルシステム)の30年にわたるCCS関連事業を引き継いで2017年4月に活動を開始。生命科学と材料科学の両分野にわたり、モデリング&シミュレーションからインフォマティクスまでマルチベンダーのソリューションを揃えている。資本金は加CCGが3分の2を出資しているが、労務管理は日本の会社として独自の制度を導入しており、今年4月で社員全員が転籍を完了し、名実ともに独立した体制でオペレーションが開始された。長期的に安定した経営を進める方針で、正社員の採用活動も開始している。
生命科学系は、親会社であるCCGの統合計算化学システム「MOE」が主力製品。最近、最新バージョン2019.01がリリースされたが、pH変化をともなうタンパク質の物性推算、AMBER TI(サーモダイナミックインテグレーション)による結合自由エネルギー計算、SAR(構造活性相関)解析ツールMOEsaic機能拡張−などが注目されている。また、バイオ医薬品開発に役立つ拡張機能であるBio-MOEもユーザーからの関心が高い。抗体、ペプチド、タンパク質の設計を支援するカスタムSVLアプリケーションで、抗体の凝集や溶解性、粘性などを考慮した開発可能性を評価することも可能となっている。
さらに、最近のMOE関連のトピックスとして、CCGの研究グループからPROTAC(タンパク質分解誘導キメラ分子)のメカニズムに着目したインシリコモデリングに関する論文が発表された。実際のSVLプログラムをダウンロードして利用することも可能だが、このような創薬理論のモダニティにすぐに追随できることがMOEの大きな利点だともいえる。
そのほか、生命科学系では、バイオインフォゲート(スペイン)の医薬品安全性アラートサービス「OFF-X」の評価が高まってきている。1万近くの医薬品および生物製剤、約7,800のターゲットに対し、30万件以上のアラートが収載されており、米食品医薬品局(FDA)が正式に使用契約を結んでいる。
一方、材料科学系では、米マテリアルズデザインが開発した「MedeA」の実績が伸びている。第一原理電子状態計算プログラムVASPをはじめ、材料物性を推算するための計算エンジン群が統合されており、異なるエンジン間の連携を含めた計算フローを自由に構築設定することができる。とくに、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)に利用できるデータを計算で生成するMedeAハイスループットについて、さきごろ東京と名古屋で開発元を招いてセミナーを行った。均質でクオリティの高いデータを一気につくり上げることができる。分子動力学法のLAMMPSを利用することにより、拡散や熱伝導、電気伝導など、第一原理計算では難しい動的な物性を容易に得ることが可能。当日は、分子動力学計算で第一原理レベルの精度を保つために必要なノウハウやツールが揃っていることが強調されたということだ。
そのほか、米ケムイノベーションの研究情報共有システム「CBIS」は、レシピ管理機能を利用することで、農薬・化粧品・機能性材料などの研究開発分野でも注目されつつある。原材料や各種添加剤、その配合比率や配合条件、実験データや製品規格への適合性を一元管理することができる。手書きメモや個人のエクセルなどに記録されていることが多く、これまであまり管理されていなかった情報だったとして、あらためてニーズが高まっている。