CCS特集2019年夏:物質・材料研究機構

MI利活用のハブ拠点に、試作して有効性を実験検証

 2019.06.21−物質・材料研究機構(NIMS)は、科学技術振興機構(JST)のイノベーション構築支援事業のもと、「情報統合型物質・材料開発イニシアティブ」(MI2I)を推進している。本格的なマテリアルズ・インフォマティクス(MI)の産官学連携プロジェクトとして内外から注目され、プロジェクトは現在最終年度に入っている。ここへ来て、具体的な研究成果も次々に出てきており、最終的に持続可能なハブ拠点として、日本のMI活用における中心的な役割を今後も果たしていくと期待される。

 NIMSは、MIや材料データに携わってきた研究者・技術者を一堂に集め、2017年4月に統合型材料開発・情報基盤部門(MaDIS)を立ち上げ、研究開発に必要な材料データを集約する「材料データプラットフォームセンター」を開設するとともに、二つの国家プロジェクトであるMI2Iと、「SIP革新的構造材料」におけるマテリアルズインテグレーション(SIP-MI)を推進してきている。

 とくに、MI2Iは2015年度〜2019年度の5カ年事業で、今年が最終年度。前半はツール開発に力を入れ、後半戦の2018年度からはMIで実際にモノづくりができることを実証してきた。自動探索によるナトリウムイオン電池向け新規正極材料設計、ベイズ最適化による波長制御熱輻射多層膜材料の設計開発、機械学習による低熱伝導性無機複合材料の設計開発、機械学習による高熱伝導性高分子材料の設計開発、離散幾何学に基づく高圧下での新規ガラス構造の発見−などの例があり、MI手法で発見・設計した材料を実際に製作し、想定した機能が得られていることを確認できたという。

 MI2IはNIMSがハブ拠点となっているが、社会実装サテライト拠点となっている大阪大学と名古屋工業大学、さらに機関間連携覚え書きを交わしている東北大学、統計数理研究所、北陸先端科学技術大学院大学など、分野間・地域間連携を図っている。このため、最終年度の今年は関東以外で全体会議を行うことにしており、2月に春のフォーラムを名古屋で開催したのに続き、秋のフォーラムは11月に大阪で開くことを決めている。

 また、プロジェクト終了後をにらんだ動きも活発になってきた。まず、MIに利用するデータプラットホーム(DPF)がグレードアップし、ハードウエアだけで10億円を投資して新DPFの構築がスタートしている。旧DPFは既存の材料データを集めてMIに利用したが、新DPFでは新たにデータを「つくる」「ためる」「使う」、さらに「使うことによって新たにデータをつくる」というサイクルを回し、充実したデータを公開することでMI利用の活性化を図る。そのため、AIを利用して論文から重要なデータを自動的に抽出したり、計測機器メーカーの協力を得て、装置から自動でメタデータを抽出するソフト開発を行ったりしている。

 MI2I終了後も、NIMSはMIのハブ拠点として機能し続けるが、MIに関する先行的な経験を得た立場を生かし、化学・材料メーカーなどと共同研究組合的な活動や、個別のテーマの受託研究などに取り組むことも検討している。

 なお、毎年秋に開催される恒例のNIMSウィークは、今年はMaDISの担当であり、データ駆動型科学をテーマにしたイベントにすることを企画中。来年3月は、アジアンマテリアルズデータシンポジウムが淡路島で開催されるため、そのホストを務めて、これをMIの国際交流の機会としたい考えだ。


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