CCS特集2019年夏:シュレーディンガー
総額2億ドル近い資金調達、仮想スクリーニング高速化
2019.06.21−シュレーディンガーは、ライフサイエンスとマテリアルサイエンスの両面で最先端のモデリング&シミュレーション技術を提供。未上場企業ながら、その技術力は投資家から高い評価を得ており、昨年末から今年にかけてビル&メリンダ・ゲイツ財団をはじめとする複数の投資家から総額2億ドル近い資金調達に成功している。ビル・ゲイツ氏は2010年以来、段階的に同社を支援しており、「(シュレーディンガーの創薬支援技術は)患者にとって有益な解決策をもたらす可能性を実証してきた」とコメントしている。
同社は、インフォマティクスも含めて創薬研究を総合的に支援するソリューションを提供しているが、とくにここ数年の牽引車となっているのが高精度自由エネルギー計算を行う「FEP+」。タンパク質とリガンドの結合性を実験と同等の精度で予測することができ、GPU(グラフィックプロセッサー)を使った高速処理が特徴となっている。クラウドで100化合物を解析し終えるまで利用できるなどの特別な従量制ライセンスを用意したことで利用が順調に増えている。
また、今年の最新バージョンからGPUを利用して高速に形状ベースのバーチャルスクリーニングを行う「Shapeスクリーニング」が提供開始され、利用が急増中。5億化合物をGPU 1個で15時間で解析(CPU 1個で行うなら128年かかる計算)できるという。同社では、反応データベースを利用して、数億から十億の化合物をバーチャルライブラリーとして発生させる技術も同時に開発しており、その意味で処理速度への要求には際限がない。社内では人工知能(AI)研究も加速させているが、最近では計算結果をAIで予測してしまおうという発想も出てきているということだ。
一方、マテリアルサイエンススイートも国内で成長率が高く、今年に最新版がリリースされている。多くの点で機能強化が実施されているが、とくにモデル化を容易にしたメタルオーガニックフレームワーク(MOF)機能が追加されたほか、ポリマービルダー機能が強化され、粗視化モデルのままで高分子が組み立てられるようになったこと、粗視化分子動力学で粘性の計算が可能になったことなどが注目される。
また、QuantumESPRESSO関連の機能では分子の吸着や電圧をかけたシミュレーションを、高精度に行うESM(エフェクティブスクリーニングミディアム)への対応、また遷移状態を探索するNEB(ナッジドエラスティックバンド)のマニュアル設定、解析ツールepsilon-xの取り込みなどが行われている。