2019年冬CCS特集:富士通九州システムズ
計算化学にMI機能追加、毒性予測の国プロ成果商用化
2019.12.03−富士通九州システムズ(FJQS)は、創薬研究や材料開発における計算化学活用を支援するプラットフォームを提供。開発サイクルを加速し、国プロへの参画や共同研究先などの外部機関との連携による製品開発を進めていく。2020年度には大きな製品計画も予定されており、今後の戦略が注目されている。
同社は、富士通やモルシスとの協業を通して海外の製品も扱っているが、自社開発パッケージがCCS事業の基盤となっている。とくに、計算化学統合プラットフォーム「SCIGRESS」は来年4月にバージョン3へレベルアップし、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)への応用を想定したQSPR(構造物性相関)機能を提供する。QuantumESPRESSOやGAMESSなどのオープンソースソフト(OSS)との連携を深め、シミュレーションデータを機械学習に利用して、モデル式の構築から物性予測までを自動化できるようにする計画だ。シミュレーションで求めた誘電率や弾性定数、分極率などを記述子として利用することができる。
SCIGRESSはもともと実験研究者にも使いやすい分子モデリングソフトとして歴史があり、OSSの並列計算など通常は複雑な操作や設定が必要な場合でも、使いやすいGUIによるサポートが得られるという強みがある。そうしたコンセプトを生かし、セミナーや無料体験ワークショップを東京・大阪・名古屋・福岡で定期的に開催することでさらなる浸透を図る考え。国内の基盤を固めるとともに、海外での販売もあらためて強化していく。
一方、構造式から薬物動態・安全性を予測する「ADMEWORKS」は、国プロ事業成果の商用化に向けて開発を推進中。これは、日本医療研究開発機構(AMED)の「創薬支援推進事業−創薬支援インフォマティクスシステム構築−」の関連で、医薬基盤・健康・栄養研究所(医薬健栄研)および理化学研究所、明治薬科大学と共同研究しているもので、各機関でキュレーションされた薬物動態/心毒性/肝毒性/化学物質系の毒性データを使用し、機械学習による予測モデルをつくり上げた。
すでに、医薬健栄研がDruMAPの名称でウェブ版を無償公開しているが、FJQSではこれを「新ADMEWORKS」(商品名は未定)として2020年度上半期に商用化する。プロジェクトにおいて製薬企業7社が提供したデータをもとにした溶解性、代謝安定性、血漿タンパク結合、hERG阻害モデルが搭載されているほか、自社データを使用した新たなモデル構築が可能。また、ネットワークと切り離してオンプレミスで運用できるほか、社内システムに組み込むためのインタフェースも用意されている。将来的には、薬物動態パラメーター予測から血中濃度予測へとつなげ、薬物相互作用シミュレーターの「DDI Simulator」と統合するところまでの構想を描いているということだ。