2019年冬CCS特集:TSテクノロジー
MIサービスを本格展開、産学プロジェクトなどで実績
2019.12.03−TSテクノロジーは、山口大学発ベンチャーとして設立から10周年を迎え、念願の東京進出を果たし、2本社体制を確立した。計算化学関連の受託研究・受託計算などの計算事業は東京を拠点に展開することとし、新たにマテリアルズ・インフォマティクス(MI)に焦点を当てたサービスを本格的に開始していくことにしている。
同社の計算事業は、決まったメニューの計算をネット経由で受注・迅速に結果を返す「クイックオーダー」から、テーマに即してきめ細かく対応する受託研究型の「フルオーダー」、一定期間の専従体制で研究協力する「包括連携契約」(FTE契約)まで、ニーズに応じた幅広いサービスを用意している。高度な理論計算を行うため、社内にサーバー環境を整えており、新しい東京本社にもGPGPUを含む計算機環境を増強した。
そして新たに打ち出したのがMI向けサービスで、人工知能(AI)のための計算化学データセット構築や、予測モデル作成のための回帰分析・機械学習解析などを行う。素材を構成する各要素分子に対し、構造記述子や量子化学計算による電子的物性の算出を実施し、AIモデル開発のための学習データセットを構築する。また、化学研究では実験から得られるサンプル数が限られるため、少ないデータで信頼性の高いモデルを構築することが必要。そこで、データのクレンジング、学習データの追加作成、ハイパーパラメーターの最適化などを一貫して行い、機械学習を含む最適な回帰分析モデルを選択して、予測精度の高いモデル構築を実施する。
実際、山口大学の研究拠点群形成プロジェクト「深層学習の予測に基づいた新規機能性化合物創成と検証」に参画して、色素増感太陽電池材料の探索をテーマに、深層学習によって分子構造や構造記述子から増感性を予測するモデルを構築したなどの研究実績がある。
一方、同社の母体ともいえる山口大学・堀憲次教授の研究室で開発された遷移状態データベース「TSDB」の商用化にも乗り出す。化学物質の遷移状態に関する量子化学計算結果を蓄積しておき、時間のかかる計算をあらためて実行することなく、化学反応解析や合成経路開発を効率的に行うことを狙っている。まずは、合成経路設計システム(SRDS)と組み合わせて、予測された合成ルートの妥当性を評価するために「TSDB」を使用する。そのためのユーザーインターフェースを開発中で、クラウドサービスとして来年6月に提供開始する予定。ユーザーが自分で遷移状態データベースを構築することも可能で、自社データと「TSDB」を一括して検索することができる。