情報統合型物質・材料開発イニシアティブ(MI2I)が最終報告会

研究成果を産業界へ公開、4月から新制度立ち上げへ

 2020.03.18−科学技術振興機構(JST)のイノベーションハブ構築支援事業のもとで、物質・材料研究機構(NIMS)を拠点として実施された「情報統合型物質・材料開発イニシアティブ」(MI2I)は2月19日と20日の2日間にわたり、東京・千代田区の一橋講堂で、3月末にで終了するプロジェクトの締めくくりとなる最終報告会を開催した。初日は250人、2日目は180人が出席し、成果発表に多くの注目が集まった。MI2Iは産業界からの関心が高かったことも特徴で、企業内研究者への教育・育成という面でも大きな実績をもたらした。今回、プロジェクトで開発された成果を基盤に、産業界におけるマテリアルズ・インフォマティクス(MI)研究を支援する「データ駆動材料開発パートナーシップ」の立ち上げが表明されたことも大きな関心を集めた。

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 当日のプログラムはバラエティに富んだ内容。実際的な出口課題を担当した蓄電池材料グループ、伝熱制御材料グループ、磁石材料グループ、MI研究を実現するための技術開発やツール開発を進めたトポロジカル解析グループ、マテリアルズ探索グループ、物質・材料記述基盤グループ、データプラットフォームグループからそれぞれ研究報告が行われたほか、参加した研究者らによる約80枚のポスター発表も実施された。

 MIを駆使した材料開発の方法論の確立に挑戦しただけでなく、実際に予測した材料を作製し、その正しさを実証できた事例がいくつも得られたことが大きな成果だったといえるだろう。いくつかはプロジェクト期間中にプレスリリースされている。また、利用できるツールとしても、パーシステンス図を用いて構造記述子を算出する「HomCloud」、第一原理計算とベイズ最適化によって結晶構造を予測する「CrySPY」、スパースモデリングなどに利用できる記述子生成ツール「LIDG」、組成・構造・記述子ライブラリー「XenonPy」、ベイズ最適化ツール「COMBO」、量子アニーリングマシンで材料設計を行うための「FMQA」、Pythonベースの第一原理電子状態解析ソフト「TOAST」、分析機器のデータを機械学習用に変換する「M-DaC」など、多くのプログラムが開発された。

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 MI2Iでは、産業界でのMI研究を支援するため、2016年4月からコンソーシアム活動を開始。最終的には、法人会員87社から331人が参加し、アカデミア会員10人とともにワーキンググループ活動も行われた。実践スキルの獲得を目指すスクール関係では、チュートリアルセミナーを10回開催し、のべ1,042人が受講。また、ハンズオン形式のセミナーは、基本コースが15回でのべ597人、実践コースが11回でのべ137人に対して開催された。

 コンソーシアムに参加した会員企業の分類としては、化学工業が38%、部品・半導体が20%、機械・自動車が9%、鉄鋼・金属が7%、電気6%、情報その他20%という構成で、業種としてはかなり幅広く、MIへの関心の広がりを感じさせる。とくに、2018年6月と2020年1月の2回、アンケートを実施しているが、MIに関する社内の変化について、1回目は70%、2回目は80%以上の会員が「活性化した」と回答。具体的な変化として、社内の注目度が上がった結果、担当や人員の増加があり、新組織の発足や具体的な事業のスタートなどに結びついたという結果が報告されている。

 今回の最終報告会では、コンソーシアムのワーキンググループ活動として、(1)無機グループが無機材料データベース「AtomWork-adv」を使用して、データ取得から、クレンジング、記述子化・特徴量化、機械学習・データ解析、転位学習までの一連の作業を進め、新材料発見に役立つか検証できる下地づくりに到達できたこと、(2)有機グループはポリマーデータベース「PoLyInfo」を利用して機械学習による物性予測(ガラス転移温度、弾性率など)、社内データや特許データを加えた2段階学習を実施し転移学習の効果を検討したなどの事例が報告された。

 産業界側からは研究コミュニティとして継続したいという要望が強かったため、NIMSの統合型材料開発・情報基盤部門(MaDIS)が拠点となって、4月1日に「データ駆動材料開発パートナーシップ」がスタートすることになった。NIMS側からすると、MI2Iの開発成果や取り組み、保有する技術などを継続的に公開することにより、産業界における研究開発に基礎的な観点から貢献し、NIMSとの共同研究などに発展させるための足場とすることが狙い。具体的には、NIMS研究者による研究発表会、ホットなトピックスの研究講演会、共同研究相談会、研究者との交流機会を提供するほか、NIMS保有でデータ駆動材料開発に活用できる素材等の提供も行う。MI2Iコンソーシアムやワーキンググループ活動を発展的に深める内容になると思われる。年会費として10万円を予定している。

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 最終報告会の締めくくりとして、MI2Iの伊藤聡プロジェクトリーダーは、プロジェクトの立ち上げに至る経緯や、プロジェクト運営に当たっての組織体制の変遷などを振り返ったあと、「バイオインフォマティクスはデータがどんどんつくり出される。それに対し、マテリアルズ・インフォマティクスは基礎方程式がわかっている系が多いことが強みだが、本質的にスモールデータであるという問題がある」と述べ、MI2Iにおけるスモールデータ問題への取り組みについて解説した。プロジェクト内で転移学習(Transfer Learning)や優先度学習(Preference Learning)などの応用を試み、少ないデータの中でも機械学習が有用な成果をもたらすことが確認できたという。ただ、「うまくいく場合とそうではない場合があり、その理由を物質科学的な視点で解明していくことが課題になる」と指摘した。

 最後に、MI2Iの研究成果を継承する持続可能なハブ拠点を形成するための取り組みが必要だと強調し、話を締めくくった。NIMSが主要なハブ拠点としての役割を担う一方、MI2Iでサテライト拠点となった大学・研究機関それぞれの特徴を生かすかたちで、データや知見を集約・相互利用しながら産官学共同研究の推進を図る独自の構想も披露した。

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<関連リンク>:

MI2I(トップページ)
https://www.nims.go.jp/MII-I/

NIMS(データ駆動材料開発パートナーシップのページ)
https://www.nims.go.jp/MaDIS/MaDIS_Partnership.html


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